大学の理工系学部や経済学部で避けて通れない関門の一つが、微分方程式の解法です。講義や定期試験、院試対策を進める中で「線形微分方程式までは理解できたものの、ベルヌーイの微分方程式の解き方で手が止まってしまう」という壁に直面する学習者は少なくありません。
ベルヌーイの微分方程式は一見すると厄介な1階非線形微分方程式ですが、適切な「変数変換」を施すだけで、すでに習得した1階線形微分方程式への変換が一瞬で完了する極めて美しい構造を持っています。本稿では、変数変換の決定的な着眼点から一般解を導く計算プロセス、代表的な例題と解答まで、つまずきやすいポイントを徹底的に解き明かします。
【基本構造】ベルヌーイの微分方程式とは?標準形と非線形の特徴

ベルヌーイの微分方程式とは、一般に次の標準形で表される微分方程式を指します。
$$\frac{dy}{dx} + P(x)y = Q(x)y^n \quad (n \neq 0, 1)$$
ここで $P(x)$ と $Q(x)$ は $x$ の連続関数です。右辺に $y^n$ というべき乗項が存在するため、全体としては1階非線形微分方程式に分類されます。$n=0$ のときは通常の1階線形微分方程式、$n=1$ のときは容易に解ける変数分離形微分方程式となるため、実質的に問題となるのは $n \neq 0, 1$(例えば $n=2, 3$ や $n=-1, 1/2$ など)のケースです。
一見すると非線形項 $y^n$ の存在によって難解に見えますが、17世紀のスイスの数学者ヤコブ・ベルヌーイが提示し、弟のヨハン・ベルヌーイらが解法を確立した通り、巧妙な代数的手法によって完全に解くことが可能です。
【完全攻略】非線形を線形へと導く変数変換のコツと解法の全手順
ベルヌーイの微分方程式を攻略する最大の鍵は、「両辺を $y^n$ で割ってから、新しい文字 $z$ を定義する」という2段階の操作にあります。試験本番でも迷わない解法の全ステップを確認しておきましょう。
ステップ1:両辺を $y^n$ で割る
与式 $\frac{dy}{dx} + P(x)y = Q(x)y^n$ の両辺を $y^n$ で割ると、以下の形が得られます。
$$y^{-n}\frac{dy}{dx} + P(x)y^{1-n} = Q(x)$$
ステップ2:変数変換 $z = y^{1-n}$ を行う
ここで $z = y^{1-n}$ と置きます。この両辺を合成関数の微分法を用いて $x$ で微分すると、次の関係が導かれます。
$$\frac{dz}{dx} = (1-n)y^{-n}\frac{dy}{dx} \implies y^{-n}\frac{dy}{dx} = \frac{1}{1-n}\frac{dz}{dx}$$
ステップ3:1階線形微分方程式へ書き換える
ステップ1の式に代入すると、式は見事に $z$ に関する線形方程式へと姿を変えます。
$$\frac{1}{1-n}\frac{dz}{dx} + P(x)z = Q(x)$$
両辺に $(1-n)$ を掛けて整理すれば、標準的な線形形が完成します。
$$\frac{dz}{dx} + (1-n)P(x)z = (1-n)Q(x)$$
ステップ4:線形微分方程式を解き、最後に $y$ へ復元する
導かれた方程式を定数変化法公式や積分因子を用いて解き、$z$ の一般解を求めます。最後に $z = y^{1-n}$ を代入して $y$ について解けば完了です。
【実践演習】ベルヌーイの微分方程式の例題と詳しい解答プロセス
理屈を理解したところで、大学数学の微分方程式演習問題で頻出する代表例を実際に解いてみましょう。
【例題】 次の微分方程式の一般解を求めよ。
$$\frac{dy}{dx} + \frac{1}{x}y = x y^2 \quad (x > 0)$$
【解答】
本問は $P(x) = \frac{1}{x}$, $Q(x) = x$, $n = 2$ のベルヌーイの微分方程式です。
① 両辺を $y^2$ で割る:
$$y^{-2}\frac{dy}{dx} + \frac{1}{x}y^{-1} = x$$
② 変数変換を行う:
$z = y^{1-2} = y^{-1}$ と置くと、$\frac{dz}{dx} = -y^{-2}\frac{dy}{dx}$、すなわち $y^{-2}\frac{dy}{dx} = -\frac{dz}{dx}$ となります。
③ 代入して整理する:
$$-\frac{dz}{dx} + \frac{1}{x}z = x \implies \frac{dz}{dx} - \frac{1}{x}z = -x$$
④ 1階線形微分方程式を解く:
同次方程式 $\frac{dz}{dx} - \frac{1}{x}z = 0$ の解は $\frac{dz}{z} = \frac{dx}{x}$ より $z = Cx$($C$ は任意定数)です。
定数変化法を用いて $C$ を $x$ の関数 $C(x)$ と置き、$z = C(x)x$ を非同次方程式に代入します。
$$C'(x)x + C(x) - \frac{1}{x}(C(x)x) = -x \implies C'(x)x = -x \implies C'(x) = -1$$
これを積分して $C(x) = -x + C$ を得ます。したがって $z$ の一般解は以下の通りです。
$$z = (-x + C)x = Cx - x^2$$
⑤ $y$ の形に戻す:
$z = \frac{1}{y}$ であったため、最終的な一般解は次のようになります。
$$y = \frac{1}{Cx - x^2} \quad \text{($C$ は任意定数)}$$
【発展比較】リッカチの微分方程式との違いと関連性
ベルヌーイの微分方程式を学ぶ際、セットで登場することが多いのがリッカチの微分方程式です。両者の違いを明確にしておくことで、応用問題に対する視野が広がります。
リッカチの微分方程式の標準形は次の通りです。
$$\frac{dy}{dx} = P(x)y^2 + Q(x)y + R(x)$$
リッカチの微分方程式は一般には求積法(初等関数による積分)で解くことができません。しかし、1つの特殊解 $y_1(x)$ が既知である場合、$y = y_1(x) + u(x)$ と置くことで $u$ に関するベルヌーイの微分方程式($n=2$)に帰着され、さらに $u = 1/z$ と置くことで1階線形微分方程式へと変換して解くことが可能になります。
つまり、ベルヌーイの解法テクニックはリッカチ型を攻略するための強固な土台としても機能しているのです。
試験対策や学問の整理には、微分方程式のタイプごとの解法チャートを頭に入れておくことが効果的です。
| 方程式のタイプ | 標準的な形 | 初手となる解法アプローチ |
|---|---|---|
| 変数分離形 | $\frac{dy}{dx} = f(x)g(y)$ | 両辺を $g(y)$ で割り、$\int \frac{1}{g(y)}dy = \int f(x)dx$ を計算 |
| 同次形微分方程式 | $\frac{dy}{dx} = f\left(\frac{y}{x}\right)$ | $u = \frac{y}{x}$($y = ux$)と置いて変数分離形へ帰着 |
| 1階線形微分方程式 | $\frac{dy}{dx} + P(x)y = Q(x)$ | 定数変化法または積分因子 $e^{\int P(x)dx}$ を用いて解く |
| ベルヌーイの微分方程式 | $\frac{dy}{dx} + P(x)y = Q(x)y^n$ | $z = y^{1-n}$ と置く変数変換で1階線形微分方程式へ変換 |
このように、同次形が「変数分離形」へと変形されるのと同様に、ベルヌーイ型は「1階線形」へと変形されます。微分方程式の解法の多くは「既知の基本形へと帰着させる変換操作」に集約されていることが分かります。
【ベルヌーイの微分方程式】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:変数変換の $z = y^{1-n}$ をど忘れしてしまった場合、どう思い出せばよいですか?
A1:公式を丸暗記しようとせず、「両辺を $y^n$ で割る」ことだけを覚えておきましょう。割った後の式は $y^{-n}\frac{dy}{dx} + P(x)y^{1-n} = Q(x)$ となります。真ん中の項に現れる $y^{1-n}$ をそのまま $z$ と置けば、自然と前の項の $y^{-n}\frac{dy}{dx}$ が微分の連鎖律によって $\frac{1}{1-n}\frac{dz}{dx}$ へ置き換わります。
Q2:$y=0$ は解として扱わなくてよいのですか?
A2:厳密な論述が求められる答案では注意が必要です。両辺を $y^n$ で割る際、$y \neq 0$ を前提としています。$n > 0$ の場合、$y = 0$ は明らかに元の微分方程式を満たす解(特異解または自明な解)となります。一般解を求めた後、「なお、$y=0$ も解である」と一言書き添えると減点を防げます。
Q3:指数 $n$ が負の数や分数の場合でも同じ手順で解けますか?
A3:全く同じ手順で解くことができます。例えば $n = -1$ ならば $z = y^{1-(-1)} = y^2$、$n = 1/2$ ならば $z = y^{1-1/2} = y^{1/2}$ と置くことで、すべて1階線形微分方程式へと帰着されます。
ベルヌーイの微分方程式は、初見では複雑に見える非線形方程式でありながら、論理的な変数変換によって線形方程式へと見事に姿を変える明快な対象です。解法の背景にあるメカニズムを一度体系立てて身につければ、試験本番で計算に詰まる心配はなくなります。
まずは基本形の例題を自力で紙に書いて解ききり、同次形や定数変化法との連携を確認しながら、大学数学の計算力を盤石なものにしていきましょう。