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五品江戸廻送令はなぜ失敗?幕府の狙いと5品目の覚え方を徹底解説

白石 ひなた 白石 ひなた • 更新: • 公開: • 読了約 10 分
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1858年の日米修好通商条約締結によって翌年に開港した横浜港。しかし、怒涛の勢いで始まった自由貿易は、日本国内にすさまじい物価高騰と流通網の麻痺をもたらしました。生活必需品の流出に危機感を募らせた江戸幕府が、事態を打開すべく打ち出した緊急経済統制策が1860年(万延元年)に発布された「五品江戸廻送令(ごひんえどかいそうれい)」です。

高校日本史の最重要テーマとして登場するこの法令は、なぜ出され、なぜあっけなく破綻したのか。教科書では語りきれない商人たちの生々しい利権争いや、イギリス公使オールコックら外国勢力との貿易摩擦の真相まで、その全貌を解き明かします。

【幕末の激震】1860年に出された「五品江戸廻送令」の基礎知識

五品江戸廻送令

1859年(安政6年)、横浜・長崎・箱館が開港すると、日本の経済システムは根底から覆されました。なかでも最大の貿易港となった横浜には、欧米各国の商船が殺到。国内の特産品が飛ぶように買われていきました。

特に海外で圧倒的な需要を誇ったのが生糸です。ヨーロッパで蚕の微粒子病が猛威を振るっていた時期と重なり、日本の高品質な生糸は破格の高値で取引されました。その結果、生産地の物資がすべて横浜に吸い寄せられ、首都である江戸の市場は深刻な品不足に陥ります。

事態を重く見た幕府は1860年(万延元年)5月、特定の重要5品目について「横浜へ直接出荷することを禁じ、必ず一度江戸の問屋へ廻送(荷受)してから輸出せよ」という命令を下しました。これが「五品江戸廻送令」です。当時の幕府にとっては、都市の治安維持と物価安定を賭けた乾坤一擲の経済統制令でした。

【一覧と語呂合わせ】対象となった5品目と絶対に忘れない覚え方

五品江戸廻送令で指定された品目は、当時の日本経済と庶民の日常生活を支えていた基幹物資ばかりです。高校日本史の試験や論述問題でも頻出となる、対象5品目の内訳は次の通りです。

【指定された5品目】

① 生糸(きいと):最大の輸出品。欧米からの莫大な需要で国内価格が暴騰。
② 雑穀(ざっこく):庶民の主食・食糧。品不足による飢餓や暴動を防ぐ対象。
③ 水油(みずあぶら):菜種油や胡麻油などの灯火用油。江戸の夜のインフラ。
④ 蝋(ろう):和蝋燭の原料。照明や加工品として不可欠な生活必需品。
⑤ 呉服(ごふく):絹織物などの衣類原料。江戸の巨大繊維市場を保護する目的。

これら5品目を短時間で確実に記憶するための鉄板の語呂合わせが、受験界で長く受け継がれている「気絶水をごくごく(生・雑・水・蝋・呉)」です。

・気(き)= 生糸
・絶(ぜつ)= 雑穀
・水(みず)= 水油
・ご(ろう/蝋)= 蝋(※「ろう」の音をイメージ)
・く(ごふく)= 呉服

頭文字を繋げた「き・ざつ・みず・ろう・ごふく」のリズムで頭に叩き込んでおくと、並び替えや正誤判定の設問でも迷うことがなくなります。

【なぜ出されたのか?】幕府が発令した本当の目的と物価高騰の背景

幕府がこの法令に踏み切った最大の理由は、「江戸市中の物価高騰の鎮静化」と「伝統的な流通支配の再構築」という2点に集約されます。

開港直後の日本では、金銀比価の違いによる金貨流出と同時に、輸出品の買い占めによるインフレーションが猛威を振るいました。生糸の値段は開港前の数倍に跳ね上がり、灯火用の油や食糧までもが江戸に入ってこなくなったため、庶民の生活は困窮。江戸市中には不穏な空気が立ち込め、打ちこわしや暴動の危機が現実味を帯びていました。

幕府としては、すべての物資を一度江戸に集めることで流通量をコントロールし、まず江戸市民の生活必需品を確保したうえで、余剰分のみを横浜に流そうと試みたわけです。統制経済の手法によって市場価格を抑え込み、幕府の権威を誇示する狙いがありました。

【流通の激突】江戸問屋VS在郷商人!横浜開港が引き起こした経済混乱

五品江戸廻送令の背景には、国内の商人勢力によるすさまじい利権闘争が存在していました。それが「江戸問屋」と「在郷商人(ざいごうしょうにん)」の対立です。

江戸時代の中期以降、物資の流通は幕府から公認された特権商人である「江戸の十組問屋」などが独占していました。生産地から集められた荷物は必ず江戸の問屋街を経由し、中間マージンを落としてから小売へ回る仕組み(問屋制)が確立していたのです。

ところが横浜が開港すると、信州や上野(群馬)、甲州などの養蚕地で台頭していた在郷商人や地方の有力農民たちは、わざわざ中間搾取の多い江戸の問屋を通すことをやめました。生産地から直接、横浜の売込問屋(生糸などを外国商館に売る商人)へ荷を直送したのです。

外国商人は現金で高値を支払ってくれるため、在郷商人にとっては莫大な利益になります。一方で、荷を素通りされた江戸の問屋街は閑古鳥が鳴き、既得権益を完全に奪われる形となりました。窮地に陥った江戸問屋連中は幕府に泣きつき、「昔ながらの流通秩序を取り戻してほしい」と強烈な陳情攻勢をかけます。五品江戸廻送令は、そうした幕府と結託した旧体制側の問屋を保護する側面を色濃く帯びていたのです。

【なぜ失敗に終わったのか?】オールコックの抗議と有名無実化の顛末

幕府肝いりで発令された五品江戸廻送令でしたが、結果としてほぼ完全な失敗に終わりました。理由は内外双方からの猛烈な抵抗です。

第一に、国内の在郷商人たちが幕府の命令を無視し、抜け道を使った密輸や直接取引を強行したことです。莫大な利益を生む横浜ルートを目の前にして、手数料を取られる江戸廻送に素直に従う商人などほとんどいませんでした。幕府の監視の目をかいくぐり、夜間に馬や舟で荷を横浜へ運び込む「抜け荷」が横行したため、法令はたちまち骨抜きにされます。

第二に、外国勢力からの強硬な反発です。とりわけ激しく抗議したのが、初代イギリス公使ラザフォード・オールコックでした。オールコックらは「日米修好通商条約第3条に明記された『自由貿易の原則』に反する明白な条約違反(不当な貿易制限)である」と主張し、幕府に対して命令の撤回を強く迫りました。

圧倒的な軍事力と外交圧力を背景にした列強の抗議に対し、幕府は強く出ることができず、生糸をはじめとする主要品目は事実上、江戸を経由しない直接取引が野放し状態となっていったのです。

【歴史の結末】改税約書による貿易自由化と幕府の衰退

実効性を失い有名無実化していた五品江戸廻送令は、幕末の動乱期において決定的な幕引きを迎えます。

長州藩による下関海峡封鎖に対する報復として起きた「四国艦隊下関砲撃事件(1864年)」の後、イギリス・フランス・アメリカ・オランダの四カ国は幕府にさらなる圧力をかけました。その結果、1866年(慶応2年)に調印されたのが「改税約書(かいぜいやくしょ)」です。

この条約により、輸入関税が一律5%前後に引き下げられただけでなく、貿易に関するあらゆる幕府の統制や制限が完全撤廃され、貿易の完全自由化が義務付けられました。これにより五品江戸廻送令は法脈的にも息の根を止められます。

市場をコントロールする力を完全に失った幕府は経済政策でも威信を失墜させ、翌1867年の大政奉還へと坂道を転がり落ちていくことになります。五品江戸廻送令の挫折は、旧来の幕藩体制が近代資本主義のグローバルな波に飲み込まれた象徴的な事件でした。

【五品江戸廻送令】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:五品江戸廻送令はいつ、誰が出した法令ですか?
A1:1860年(万延元年)、江戸幕府によって出されました。前年の1859年に横浜が開港したことを契機とする貿易統制令です。

Q2:対象となった「五品」のうち、最も影響が大きかった品目は何ですか?
A2:圧倒的に「生糸」です。当時、生糸は全輸出額の過半数を占める最大の輸出品であり、欧米商人が最も求めた品目でした。そのため幕府の統制を無視した直接取引が最も激しく行われました。

Q3:なぜ「米」は五品江戸廻送令の対象に入っていないのですか?
A3:米は幕府の財政基盤(石高制)そのものであり、最初から条約で自由輸出が認められていなかったためです。対象となった「雑穀」には大麦、小麦、大豆、小豆などが含まれます。

Q4:五品江戸廻送令に抗議した中心人物は誰ですか?
A4:初代イギリス公使のオールコックです。彼は日米修好通商条約などで認められた「自由貿易の権利」を侵害するものとして、幕府に強硬な抗議を行いました。

幕府が起死回生を狙って打ち出した五品江戸廻送令は、開港に伴う物価高騰と社会不安を抑え込み、江戸問屋の権益を守るための必死の防衛策でした。しかし、グローバル市場がもたらす巨大な利益の引力と、在郷商人たちのバイタリティ、そして欧米列強の外交圧力の前に、旧態依然とした統制システムはあえなく崩壊しました。

経済の自由化と国内産業の保護というジレンマ、そして一度開かれた市場を国家の力だけで縛り直すことの難しさは、現代の世界経済にも通じる普遍的な課題です。高校日本史の一コマとして記憶するだけでなく、日本が近代市場経済へと突入する過程で経験した「最初の貿易摩擦のドラマ」として捉え直すことで、幕末史の理解はより一層深まるはずです。

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トレンドリサーチャー 白石 ひなた
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芸能・エンタメ取材7年。一次情報は事務所の公式リリースと本人の公式SNSに限定し、報道だけの情報は複数媒体の一致を確認してから扱います。

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