和装の羽織ものを脱いだ際、「着物と同じようにたたもうとして衿やマチの処理に迷った」という経験を持つ方は少なくありません。羽織は着物と構造が異なり、前身頃の衽(おくみ)がない代わりに「マチ」や「衿の折り返し」が存在するため、正しい手順を知らないと余計なシワや型崩れの原因になってしまいます。
外出先から帰宅した後の手入れから、長期保管に向けたたとう紙への収め方まで、正しい知識を押さえておくことで愛用の羽織を何十年先も美しく保てます。今回は、初心者でも迷わずできる基本の本だたみ手順をはじめ、長羽織や男物、羽織紐の扱い方まで分かりやすく解説します。
【着物と羽織のたたみ方の違い】衿の折り返しとマチの処理が最大のカギ

羽織を着物と同じ感覚でたたもうとすると、脇まわりがもたついて綺麗に平らになりません。その理由は、着物と羽織の仕立て構造における「衽(おくみ)の有無」と「衿の折り方」の違いにあります。
着物は前身頃に衽があり、衿を内側に折り込んで前を重ね合わせます。一方、羽織には衽がなく、胸元を広く開けて羽織紐で留める形状になっています。加えて、衿は「外側(表側)へ半分に折り返す」構造になっており、身頃の脇にはゆとりを持たせるための「マチ」が付いています。
たたむ際は、このマチを前身頃と後身頃の間に綺麗に割り込み、衿を着物とは逆に外側に折ったまま平らに整える必要があります。この構造の違いさえ把握しておけば、無理な力がかからず、折りジワを最小限に抑えることができます。
【羽織本だたみ手順】シワにならない基本のたたみ方をプロが解説
自宅でたとう紙に収める際に行う最も標準的でシワになりにくい方法が「本だたみ(平だたみ)」です。畳や衣装敷きの上など、清潔で平らなスペースを確保して行いましょう。
ステップ1:羽織を広げて衿を整える
羽織の衿を左側、裾を右側にして広げます。衿は着用時と同様に外側へ半分に折った状態をキープし、背中心の縫い目をまっすぐに伸ばします。
ステップ2:脇のマチを内側に倒す
手前側の脇にあるマチを、縫い目に沿って内側(背身頃側)へ倒します。向こう側のマチも同様に内側へきれいに折り込みます。
ステップ3:前身頃を手前と奥から重ねる
手前の前身頃を背身頃の上へ重ね、衿先を綺麗に揃えます。続いて向こう側の前身頃も中央へ向けて重ね、左右の前身頃が綺麗に対称になるよう手アイロン(手のひらで撫でて空気を抜く動作)をかけます。
ステップ4:袖を身頃の上に折り返す
まず向こう側の袖を身頃の上に折り返します。次に手前側の袖を、身頃の上(向こう側の袖の上)に重ねるように折り返します。袖付けの縫い目に沿って無理なく折り曲げるのがポイントです。
ステップ5:裾を持ち上げて二つ折りにする
全体のシワを軽く伸ばしたら、裾を持って身頃の中央付近へ向けて二つ折りにします。これでコンパクトかつ美しい本だたみが完成します。
【長羽織・男物・絵羽織】種類別の応用と羽織紐を付けたままたたむコツ
現代の着物コーディネートで主流となっている長羽織や、仕立ての異なる男物羽織、豪華な絵羽織(えばおり)には、それぞれ特有のポイントがあります。
長羽織のたたみ方
丈の長い長羽織は、最後の二つ折りだけではたとう紙のサイズに収まらないケースがあります。その場合は無理に小さく折るのではなく、裾を3分の1程度折り返してから身頃を折る「三つ折り」を採用します。折り目部分に薄紙を挟むと、重みによる強いシワを防止できます。
男物羽織のたたみ方
男物の羽織は女性物と異なり、脇の「振り(袖の開き)」が閉じており、身頃の仕立ても直線的です。マチの処理や衿の外折りという基本ルールは女性物と同じですが、丈が短いため基本の二つ折りでスマートに収まります。
絵羽織・刺繍羽織の配慮
背中から袖にかけて一枚の絵のように柄がつながる絵羽織や、金銀糸・刺繍が施された羽織は、刺繍部分同士が擦れて傷まないよう、折り重なる部分に和紙や薄紙(純白ロール紙)を挟み込んで保護します。
羽織紐を付けたままたたむ裏技
「毎回羽織紐を外すのが面倒」という場合は、付けたままたたむことも可能です。羽織紐の房が乱れたり金具が生地を傷つけたりしないよう、房部分を和紙で軽く巻き、左右の前身頃の内側に挟み込むようにして折り畳みます。
【出先や一時脱ぎに便利】羽織の袖だたみと仮だたみ手順
飲食店や車内、観劇時など、外出先で一時的に羽織を脱ぐ場面では、床に広げる本だたみはできません。その際に重宝するのが「袖だたみ」と「仮だたみ」です。
外出先での袖だたみ(立ったままできる方法)
1. 羽織の両肩をつまんで持ち、背中心を半分に折るようにして左右の身頃を合わせます。
2. 両袖をぴったりと重ね合わせます。
3. 重ねた両袖を身頃の上に折り返し、全体を縦長にします。
4. 裾から半分、または3つにたたんで膝の上に置くか、風呂敷やバッグに収納します。
袖だたみは手早くコンパクトにまとまるため、シワを最小限に抑えつつスマートに所作をこなしたい場面で役立ちます。
【着物ハンガー掛け方とたとう紙包み方】美しさを保つ羽織の保管とお手入れ
羽織をたたんでタンスにしまう前後のケアも、生地の寿命を左右する決定的な要素です。
着用直後の羽織には体温や湿気が残っています。脱いですぐにたたんで密閉するとカビや黄変の原因になるため、まずは着物ハンガー(長尺ハンガー)に掛け、直射日光の当たらない風通しの良い室内で数時間から半日ほど陰干しします。袖が垂れ下がって型崩れするのを防ぐため、必ず肩幅に合った和装専用ハンガーを使用してください。
湿気がしっかり抜けた後、本だたみにして羽織専用または着物用の「たとう紙」へ収めます。たとう紙は余分な湿気を吸い取り、ホコリから着物を守る役割を果たします。保管時はタンスの中に詰め込みすぎず、一番上に置くなどして重みによる圧迫ジワを防ぎましょう。
【羽織 たたみ 方】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:羽織の衿はなぜ外側に折るのですか?着物のように内側に折るとどうなりますか?
A1:羽織の衿は最初から「衿肩あき」部分で半分に外側へ折り返して着用する仕立て(衿裏が付いている構造)になっています。着物のように内側に折ろうとすると、衿の縫い目に無理なねじれが生じ、衿元に不自然な波打ちジワが残ってしまうためです。
Q2:長羽織がたとう紙に入りきらないときはどうすれば良いですか?
A2:羽織用(短め)のたとう紙ではなく「着物用(長尺)」のたとう紙を使用するか、裾を二段に分けて折る「三つ折り」にします。折る位置に丸めたタオルや和紙を芯として挟むと、折りジワを劇的に防ぐことができます。
Q3:羽織紐の「S管(金具)」は外して保管すべきですか?
A3:長期間保管する場合は、S管金具を外しておくのが安全です。金具が生地に圧着されたまま湿気や圧力がかかると、生地の引っかき傷やサビ移り、生地の変色の原因になります。一時的な収納以外は、金具を外して小物袋で個別管理することをおすすめします。
羽織のたたみ方は、「外折りの衿」「脇のマチ」という2つの構造的特徴を把握するだけで、決して難しい作業ではありません。
脱いだ後の陰干しから、シワを作らない本だたみ、そしてたとう紙での適切な湿気管理までの一連の流れをルーティン化することで、お気に入りの羽織をいつでも美しいシルエットで着用できます。お出かけ先での袖だたみも含め、正しい扱い方を身につけて和装ライフをより快適に楽しんでください。