社員による深刻な不正行為や突発的な天災に直面した際、経営陣や人事担当者が直面するのが「即時解雇」の判断です。しかし、日本の労働法制において解雇は厳格に規制されており、労働基準法原則に則れば、30日前の解雇予告または30日分以上の解雇予告手当の支払いが義務付けられています。この手当支払いを免除され、即日に雇用関係を終了させるための唯一の公的手続きが「解雇予告除外認定」です。
重大な背任行為があれば無条件で即時解雇できると思い込んでいる現場は少なくありません。しかし実際には、所轄の労働基準監督署長から正式な認定を受けないまま解雇予告手当を支払わずに解雇を通告した場合、違法解雇として後々多額の未払い金請求や損害賠償訴訟に発展するケースが後を絶ちません。2026年の最新労務実務に即し、除外認定が認められる具体的な基準や申請手続きの全貌、不認定を避けるための必須対策をプロの視点から紐解きます。
【基本概要】解雇予告除外認定とは?労働基準法第20条第1項但書の法的根拠

解雇予告除外認定の根拠となっているのは、労働基準法第20条第1項但書の規定です。同条文では、原則として使用者が労働者を解雇する場合、少なくとも30日前の予告を行うか、予告を行わない日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めています。
ただし、特定の例外事情が存在し、かつ「行政官庁(所轄の労働基準監督署長)の認定」を受けた場合に限り、解雇予告手当支払義務免除が適用され、即日解雇が有効に成立します。ここで注意すべきは、事由が存在するだけで自動的に免責されるわけではなく、労基署による個別審査と認定決定が絶対要件であるという点です。
就業規則に「懲戒解雇時は予告手当を支給しない」と定めていたとしても、除外認定の申請を怠れば労働基準法違反のペナルティを免れません。企業の独自ルールよりも労働基準法の効力が優先されるため、法的に隙のない手順を踏むことが大前提となります。
【認定基準】労働基準監督署が認める「労働者の責に帰すべき事由」と具体例
労基署が除外認定を下すかどうかの判断基準として、通達(昭和23年3月17日基発461号、昭和31年3月14日基発151号など)により「労働者の責に帰すべき事由」の範囲が厳格に定められています。実務上、解雇予告除外認定基準を満たすとみなされる代表的なケースは以下の6類型です。
1つ目は、社内における盗取、横領、傷害などの刑法犯に該当する行為です。横領や背任行為の即時解雇であっても、数千円程度の軽微な金銭誤差ではなく、組織に実質的な損害を与えた事実や悪質性が問われます。2つ目は、賭博や風紀紊乱によって職場規律を著しく乱し、他の従業員に悪影響を及ぼした事案です。
3つ目は、雇入れ時の重要経歴詐称、4つ目は他社への二重就労によって自社の労務提供に重大な支障をきたした場合、5つ目は正当な理由のない2週間前後の無断欠勤と出勤督促への不応、そして6つ目は出勤不良で再三の注意・指導を受けても改善の見込みがない場合です。いずれの場合も、行為の重大性だけでなく、本人の情状や過去の勤務態度を総合的に勘案して可否が決まります。
【天災事変】事業継続が不可能なケースでの解雇予告手当支払義務免除
労働者側に非がない場合であっても、天災事変事業継続不可能の理由により除外認定が認められる局面があります。地震、津波、大規模水害、あるいは事業所全体を焼き尽くす類焼火災など、不可抗力の事態によって事業拠点が全壊し、操業再開のめどが立たない状況が該当します。
ただし、単なる経営不振や原材料の高騰、取引先の連鎖倒産などは「天災事変その他やむを得ない事由」には含まれません。使用者の経営努力やリスク管理の範囲内と判断される経済的要因では、除外認定を受けることは不可能です。
天災による申請であっても、事業主が再建のために可能な限りの手段を尽くしたか、他拠点への配転など解雇回避努力の余地が本当になかったのかが厳格に審査されます。
【申請手続き】除外認定申請書の書き方と審査期間・必要書類一覧
労働基準監督署申請手続きを円滑に進めるためには、書類の不備をなくし、裏付け資料を漏れなく揃える必要があります。管轄の労基署へ提出する「解雇予告除外認定申請書」には、事由発生の日時、違反行為の詳細、対象者の基本情報、これまでの注意指導歴を極めて具体的に記載しなければなりません。
審査を通過するために必要となる標準的な書類一覧は以下の通りです。
・解雇予告除外認定申請書(労基署所定様式)
・就業規則および賃金規程の写し(懲戒規定、解雇規定の該当部分)
・労働契約書または雇用条件通知書
・非行事実を裏付ける客観的証拠(不正送金明細、防犯カメラ映像、パソコンのログデータ、入退室記録など)
・本人の始末書・自認書、または事情聴取記録
・注意指導書、改善勧告書、メール送信履歴(無断欠勤・勤務不良の場合)
申請から認定通知書が交付されるまでの審査期間と必要書類一覧の処理目安はおよそ1週間から2週間程度です。労基署の監督官は、提出書類のチェックにとどまらず、対象労働者本人への電話や対面での事情聴取を原則として実施します。
【不認定の真相】思わぬ落とし穴とは?懲戒解雇の即時実行に伴う不当解雇リスク
労基署に申請したものの「不認定」となってしまうケースには、共通する典型的な落とし穴が存在します。最大の要因は「客観的証拠の不足」と「手続き的正義(デュープロセス)の欠落」です。
会社側が「本人が横領を口頭で認めた」と主張しても、録音や署名捺印入りの自認書がなければ、労働者が労基署の調査で「脅迫されて嘘を言わされた」と供述を翻した瞬間に認定は暗礁に乗り上げます。また、本人に弁明の機会を与えずに一方的に解雇を決めた場合も、労基署は認定を見送る傾向が強いのが現実です。
不認定となったにもかかわらず解雇予告手当を支払わずに即時解雇を強行すれば、不認定理由と不当解雇リスクが一気に表面化します。労働者から労働審判や民事訴訟を起こされた場合、解雇無効判決が下され、解雇期間中のバックペイ(未払い賃金)や慰謝料の支払いを命じられる致命的な打撃を被ることになります。
【2026年最新労務トラブル対策】横領・背任行為発覚時の初動対応と実務ポイント
コンプライアンス意識の高まりと労働者の権利意識が浸透した2026年のビジネス現場では、性急な処分が企業命取りになります。懲戒解雇即時解雇を視野に入れる事案が発生した際は、以下のステップに沿った冷静な初動が大切です。
第1に、不正が発覚した段階で焦って即日解雇を通告せず、まずは就業規則に基づき「自宅待機(有給扱い)」を命じることです。出勤を停止させた上で証拠隠滅を防ぎ、デジタルフォレンジックや関係者ヒアリングによる客観的証拠の保全を完了させます。
第2に、2026年最新労務トラブル対策として欠かせないのが「弁明の機会の付与」です。日時を指定して本人に弁明書を提出させるか面談を実施し、その全容を書面または録音で正確に記録します。
第3に、証拠が強固に固まった段階で労基署へ除外認定を申請し、認定が下りるまでの間は解雇通知を保留します。万が一、労基署の審査が長引くことによる社内秩序の乱れを回避したい場合は、除外認定に固執せず、30日分の解雇予告手当を支払って即時解雇に踏み切るという実務的判断も有効な選択肢となります。
【解雇予告除外認定】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:除外認定の申請中に対象社員を即日解雇することはできますか?
A1:法的には推奨されません。認定が出る前に解雇予告手当を支払わずに解雇した場合、後から不認定が出ると労働基準法第20条違反が確定してしまいます。安全策を取るならば、認定が下りるまでは自宅待機とするか、30日分の予告手当を支払って即時解雇手続きを行う必要があります。
Q2:労基署の除外認定を受ければ、その解雇は裁判でも絶対に無効になりませんか?
A2:絶対とは言い切れません。除外認定はあくまで「解雇予告手当の支払い義務を免除する行政上の決定」であり、解雇そのものの民法・労働契約法上の有効性(解雇権濫用法理)を裁判所が保証するものではありません。ただし、公的機関が重大な非行を認めた有力な証拠として、裁判実務上は企業側に極めて有利に働きます。
Q3:申請書類の作成を社会保険労務士や弁護士に代行してもらうことは可能ですか?
A3:可能です。除外認定申請書の作成・提出代行は特定社会保険労務士や弁護士の専門領域です。特に証拠の整理や事由の法的主張には専門知識を要するため、事案の悪質性が高い場合や本人が争う姿勢を見せている場合は、初期段階から専門家へ相談することをおすすめします。
解雇予告除外認定は、深刻な非行を起こした労働者や未曾有の災害に対し、企業が適法に解雇予告手当を免除される正当な救済措置です。しかし、その認定ハードルは極めて高く、経営者側の一方的な感情や杜撰な事実確認では労基署の審査を通過することはできません。
感情的な即時解雇に走るのではなく、徹底した証拠収集、適切な弁明機会の確保、そして正確な申請書類の作成という手順を着実に踏むことが、企業の法的安定性を守る唯一の道です。労務トラブルを未然に防ぎ、健全な職場環境を維持するためにも、日頃から就業規則の整備とコンプライアンス体制の見直しを徹底してください。