江戸五街道に次ぐ重要な幹線道路として、江戸時代に整備された「水戸道中(旧水戸街道)」。日光街道の初宿である千住宿を起点に、水戸徳川家のお膝元である水戸宿までを結ぶ約117km(約30里)の道のりには、今なお参勤交代の熱気を伝える歴史的遺構や宿場町の風情が色濃く残されています。
近年、歴史ウォーキング愛好家や週末ハイカーの間で「東海道や中山道よりも歩きやすく、見どころが凝縮されている」と再評価が進む旧水戸街道。東京・千葉・茨城の街並みを縫うように伸びる古道の現在の様子と、歩く前に絶対に押さえておきたい名所やルート攻略のポイントを解説します。
【歴史と概要】水戸徳川家が駆け抜けた「水戸道中」の役割と真の姿
旧水戸街道の正式名称は「水戸道中(みとどうちゅう)」。幕府の道中奉行が管轄する主要脇往還として位置づけられ、五街道に準ずる極めて重要な幹線道路でした。この街道が他の五街道と決定的に異なっていたのは、水戸徳川家が「江戸定府(じょうふ)」であった点です。
水戸藩主は参勤交代を行わず原則として常に江戸小石川の藩邸に詰めていたため、一般的な大名行列の頻度は他藩より少なかったものの、藩士の往来や領地からの物資輸送、そして江戸防衛のための軍事道路として厳格に管理されていました。金町関所(葛飾区)をはじめとする関門が置かれ、水戸街道の歴史は「江戸北東の防衛線」としての緊張感と隣り合わせだったのです。
【全20宿場町一覧】千住宿から水戸宿までのルートと距離マップ
旧水戸街道は、日光街道との追分(分岐点)である千住宿からスタートし、利根川や霞ヶ浦水系を渡りながら水戸城下へと至ります。宿場町の一覧は以下の通りです。
【旧水戸街道・全20宿一覧】
1. 千住宿(東京都足立区)※日光街道と共用
2. 新宿(にいじゅく)(東京都葛飾区)
3. 松戸宿(千葉県松戸市)
4. 小金宿(千葉県松戸市)
5. 我孫子宿(千葉県我孫子市)
6. 取手宿(茨城県取手市)
7. 藤代宿(茨城県取手市)
8. 若柴宿(茨城県龍ケ崎市)
9. 牛久宿(茨城県牛久市)
10. 荒川沖宿(茨城県土浦市)
11. 中村宿(茨城県土浦市)
12. 土浦宿(茨城県土浦市)
13. 中貫宿(茨城県土浦市)
14. 稲吉宿(茨城県かすみがうら市)
15. 府中宿(茨城県石岡市)
16. 竹原宿(茨城県小美玉市)
17. 片野宿(茨城県小美玉市)
18. 小幡宿(茨城県東茨城郡茨城町)
19. 長岡宿(茨城県東茨城郡茨城町)
20. 水戸宿(茨城県水戸市)
全長はおよそ117km。平坦な関東平野を進むルートのため、峠越えのような急峻な山道はなく、全体として歩きやすい地形が続いています。
【決定版ルート】前半の白眉!千住・松戸・我孫子・取手の見どころ
旧水戸街道ウォーキングにおいて、特に歴史風情が色濃く残りハイカーに人気が高いのが東京から茨城県境までの前半区間です。
千住宿〜新宿(にいじゅく)では、中川を渡る手前に「新宿日枝神社」や道標が残り、都内の喧騒の中にひっそりと宿場町の痕跡をとどめます。金町を超えて江戸川を渡ると、千葉県最初の宿場である松戸宿に入ります。松戸宿の見どころは、最後の将軍・徳川慶喜の弟である徳川昭武の別邸「戸定邸(とじょうてい)」や、風情ある醤油醸造の歴史を伝える古い町並みです。
さらに北上した我孫子宿は、大正期に志賀直哉や武者小路実篤らが居を構えた白樺派の拠点としても有名ですが、街道沿いには「旧井上家住宅」など江戸末期の豪農建築が堂々と立ち並びます。利根川を越えた先にある取手宿には、水戸徳川家歴代藩主が宿泊・休憩に利用した「旧取手宿本陣 染野家住宅」が現存。当時の姿をそのまま伝える県指定有形文化財であり、内部公開日には参勤交代当時の空気感を肌で体感できます。
【現在に残る遺構】街道の記憶を刻む一里塚と枡形道路のリアル
現代の旧水戸街道は、国道6号(水戸街道)や県道に吸収された区間も多いものの、一歩旧道に入れば往時の面影が今なお鮮明に息づいています。
街道歩きのだいご味である一里塚も各地に残されています。中でも龍ケ崎市内に位置する「若柴の一里塚」は、道路を挟んで東西一対の土盛りがほぼ完全な形で現存しており、国の史跡級の価値を誇る貴重なスポットです。また、宿場の出入り口に敵の侵入を遅らせるために設けられたクランク状の道路構造「枡形(ますがた)」の痕跡が、小金宿や土浦宿の路地にそのままカーブとして受け継がれています。
【実践ウォーキング術】マップアプリとブログ情報を武器に歩く
旧水戸街道を全線踏破する場合、成人男性の平均的な歩行ペースで4泊5日、あるいは日帰り5〜6回に分割して歩くのが現実的かつ快適なプランです。
① JR常磐線を活用した「区切り歩き」が鉄則
旧水戸街道は、千住から水戸に至るほぼ全線でJR常磐線と平行しています。「今日は松戸駅から我孫子駅まで」「次回は我孫子駅から牛久駅まで」といったように、駅を起点・終点に設定することで、無理のないデイトリップが可能です。
② 最新GPSマップとウォーキングブログの併用
旧道は住宅街の入り組んだ路地やバイパス建設で寸断されている箇所が少なくありません。街道愛好家が公開している「Googleマイマップ」のGPXデータをスマートフォンに読み込み、現在地を確認しながら進むのが迷わない秘訣です。先人の「旧水戸街道ウォーキングブログ」で最新の迂回ルートや休憩スポットの下調べをしておくと、トラブルを未然に防げます。
【旧水戸街道】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:旧水戸街道の全行程を歩くには何日くらいかかりますか?
A1:全行程約117kmを踏破するには、1日あたり20〜25km前後の歩行ペースでおおむね5日間が目安です。週末を利用した日帰り分割ウォークなら、5〜6回に分けると無理なく楽しめます。
Q2:初心者におすすめの散策区間はどこですか?
A2:見どころが多く歩道が整備されている「松戸駅〜北小金駅(約7km)」または「我孫子駅〜取手駅(約8km)」が最適です。戸定邸や本土寺、取手宿本陣などの主要観光スポットを短時間で巡ることができます。
Q3:国道6号をずっと歩くルートになるのでしょうか?
A3:いいえ。交通量の多い国道6号を歩く区間は一部に限られます。大半は国道から外れた落ち着いた旧道・住宅街・田園地帯を通るため、のんびりと歴史情緒を味わいながら歩くことができます。
旧水戸街道は、東京近郊の都市景観から千葉の歴史ある宿場町、そして茨城の雄大な田園と城下町へと、歩き進めるごとにドラマチックに景色が移り変わる魅力あふれるルートです。
鉄道網が発達しているためアクセスの良さは全国の古道の中でもトップクラス。水戸徳川家の歴史と庶民の暮らしの記憶が交差するこの街道へ、スニーカーの紐を締め、歴史を紐解くウォーキングの旅へ繰り出してみてはいかがでしょうか。