日常のビジネスシーンや契約書のリーガルチェック、さらには自治体の公文書を作成する際、「若しくは(もしくは)」と「又は(または)」のどちらを使うべきか迷った経験はないでしょうか。どちらも英語の「OR」に相当する選択的接続詞ですが、法律や公用文の世界では明確で厳格なルールが存在し、適当に選んで使うことは許されません。
もし使い分けを誤ると、契約の適用範囲や法的効力の解釈が根本から狂ってしまい、思わぬトラブルを引き起こすリスクすら孕んでいます。今回は、日常業務から専門的な条文読解まで役立つ、2つの言葉の決定的な違いと階層構造のルールを解説します。
【決定的な違い】「若しくは」と「又は」を分ける階層構造のルール
「若しくは」と「又は」の使い分けを理解するうえで、最も根幹となるのが並列的接続詞の階層構造です。どちらも「AかBのいずれか」という選択関係を示しますが、文構造の中で担う役割の大きさが異なります。
大原則として、選択肢が1段階(グループ分けがない単純な選択)である場合は、すべて「又は」を使用します。例えば「A又はB」「A、B又はC」といった形です。ここには「若しくは」が登場する余地はありません。
「若しくは」が出番を迎えるのは、選択関係が2段階以上の重層的なグループに分かれる場合です。このとき、【大きなグループの接続には「又は」】を使い、【小さなグループの接続には「若しくは」】を充てるという絶対的な優先順位が存在します。
「若しくはと又はの優先順位」を視覚的に整理すると、以下の構造になります。
(A 若しくは B) 又は (C 若しくは D)
このように、「若しくは」で結ばれた小さな括りが先に作られ、それらを統合する一番外側の枠組みとして「又は」が配置されます。「若しくは」は単独で主役を張る接続詞ではなく、「又は」という大枠の中で細部をまとめるサブプレイヤーとして機能しているのです。
【例文で学ぶ】「若しくは」と「又は」の正しい用例と意味の捉え方
具体的なシチュエーションを想定した例文を見ることで、法令用語の正しい用例がより明確に掴めます。
まずは、段階ごとの接続の組み立て方を確認してみましょう。
【パターン1:単純な選択(1段階)】
・「氏名又は名称を記載しなければならない」
・「東京、大阪又は名古屋のいずれかに出頭する」
※選択肢が複数並ぶ場合でも、階層差がなければ読点(、)で繋ぎ、最後の区切りのみ「又は」を置きます。
【パターン2:複合的な選択(2段階)】
・「『日本国内に住所若しくは居所を有する者』又は『外国法人』」
※「住所」と「居所」という近しい概念(小グループ)を「若しくは」で束ね、それと「外国法人」という別次元の選択肢(大グループ)を「又は」で繋いでいます。
【パターン3:さらに深い階層(3段階以上)】
法令の複雑な規定では、3段階以上の階層が現れるケースもあります。その場合でも大原則は崩れません。最も大きい区切りのみに「又は」を1回だけ使い、それ以外のすべての下位階層には「若しくは」を重ねて使用します。
このルールを把握しておくだけで、難解な法律文書や行政手続きの案内文を読んだ際、どこからどこまでが一塊の条件なのかを一瞬で見抜けるようになります。
【契約書・公用文の実務】失敗しない書き方とビジネス文書の使い分けマナー
民間企業の取引における契約書作成や社内規程の整備においても、この使い分けは極めて重要です。契約書での若しくはと又はの書き方が乱れていると、条項の解釈を巡って法的な争点になりかねません。
公用文作成の要領ルールに準拠した文書作成は、公的機関だけでなく、信頼性が求められる大手企業間のBtoB契約でも標準的な作法とされています。ビジネス文書の使い分けマナーとして意識すべき要点は次の通りです。
1. ひらがな表記と漢字表記の統一
公用文や法令では「若しくは」「又は」と漢字で表記するのが原則です。ただし、一般的なビジネスメールや企画書など平易さが求められる文脈では「もしくは」「または」とひらがなで統一しても問題ありません。重要なのは、1つの文書内で表記の揺らぎを発生させないことです。
2. 意図しないグルーピングの防止
例えば契約書で「甲、乙若しくは丙又は丁」と書いた場合、法的な解釈では「(甲・乙・丙)のグループ」か「丁」かの2択になります。もし「甲」か「乙」か「丙」か「丁」のいずれか対等な1つを指したいのであれば、「甲、乙、丙又は丁」と書かなければなりません。接続詞ひとつで合意内容が変質してしまう点に注意が必要です。
【及び・並びにと比較】選択的接続詞と併合的接続詞の優先順位を整理
「若しくは・又は」が【選択(OR)】を表すのに対し、【並列・付加(AND)】を表す接続詞が「及び(および)」と「並びに(ならびに)」です。条文の読み方と接続詞のマスターには、両者の対比構造を押さえるのが一番の近道です。
「及びと並びにと若しくはの違い」を表で比較すると、驚くほど美しい対称性が見えてきます。
| 分類 | 小グループ(下位) | 大グループ(上位) |
|---|---|---|
| 選択的接続詞(OR) | 若しくは | 又は |
| 併合的接続詞(AND) | 及び | 並びに |
AND接続の場合、日常会話の感覚では「並びに」のほうが軽い言葉に聞こえる可能性がありますが、公用文の規則では「並びに」が最大級の接続詞であり、「及び」が最小単位の接続詞になります。
つまり、「(A 及び B) 並びに (C 及び D)」という構造をとります。OR接続の「若しくは」と「又は」の関係と、上下関係の序列がそのまま鏡合わせになっていると覚えると混同しません。
【法律用語の背景】なぜ2つの「OR」が存在するのか?使い分けの理由に迫る
日常会話であれば「または」一言で済むにもかかわらず、なぜ日本の法体系はわざわざ2つの言葉を厳密に区別し続けているのでしょうか。その若しくはと又はの使い分け理由は、「文義の曖昧さを極限まで排除するため」です。
日本語は膠着語であり、修飾関係が長くなると係り受けが曖昧になりやすい性質を持っています。欧米言語における括弧や関係代名詞のような厳密な論理境界線を、日本語の文章内で明快に示すために、明治期以降の法制官僚たちが接続詞の階層ルールを洗練させてきました。
法律用語接続詞使い分けの基準が確立されたおかげで、裁判官や弁護士、行政職員は、どれほど複雑に入り組んだ条文であっても、主語と述語、そして条件分岐の包含関係を誤解なく一意に読み解くことができます。先人たちが築いたこの厳格な論理体系こそが、法治国家の安定運用を支える見えない土台となっているのです。
【若しくは 又は 違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:選択肢が2つしかない場合、「若しくは」を使ってもいいですか?
A1:公用文や契約書のルール上、誤りとなります。選択肢が2つだけで階層構造がない場合は、必ず「又は」を使用してください。「A若しくはB」という単独の使い方は、法令・公用文の表記基準から外れます。
Q2:「又は」と「若しくは」が混在する長い条文を素早く理解するコツは?
A2:まず文章全体の中から「又は」の位置を探すのが鉄則です。「又は」が見つかった場所が一番大きな区切り(センターライン)になるため、そこで文章を2つに分割し、それぞれの内側にある「若しくは」で小分けされた条件を整理するとスムーズに読解できます。
Q3:一般的なビジネスメールや議事録でも、このルールを守らないとマナー違反になりますか?
A3:一般的な連絡業務やチャットツールでのやり取りにおいて、厳密に階層ルールを守らなくても失礼にはあたりません。ただし、社内規程の改定案や業務委託契約書、誓約書といった法的効力を持つ文書を作成・精査する場面では、本ルールに則った正確な記述が強く求められます。
「若しくは」と「又は」の使い分けは、単なる言葉の好みの問題ではなく、文章のロジックを正確に伝達するための階層ルールに基づいています。
・基本の選択はすべて「又は」を使う
・重層的な選択肢がある場合のみ、内側の小グループに「若しくは」を配置する
・AND接続の「及び(小)」「並びに(大)」とセットで体系化して覚える
この基本原則をしっかりと頭に入れておけば、契約書のドラフト作成や各種手続き書類の確認時に迷うことはありません。論理的で隙のないビジネス文書を作成するために、ぜひ日頃の実務へ役立ててください。