X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSで定期的にタイムラインを騒がせる、壁に向かって伸びる階段や完全に封鎖された踊り場。「なんだこの階段は!?」と目を疑うような奇妙な階段の写真が投稿されるたび、数万件規模の「いいね」とリポストが飛び交います。
一見すると施工業者の単純なミスや設計の狂いのように思えますが、現場を丹念に紐解くと、そこには建築基準法の変遷や街の歴史、そして日本独自のアートカルチャーが深く息づいていました。ネットをざわつかせる不可解な階段の謎と、その背後にある真実を追跡します。
【SNSで拡散】「なんだこの階段は」元ネタとネットの爆笑&困惑リアクション
SNS上で爆発的な拡散を見せる奇妙な階段の写真。その多くは、登りきった先にコンクリートの壁が立ちはだかっていたり、2階の扉だけが撤去されて空中に浮いたステップだけが残されていたりするシュールな光景です。
ネット上では「異世界へのワープポイント」「ホグワーツ魔法魔術学校の隠し通路か」「大工さんが設計図を逆さまに読んだ説」など、ユーモアあふれる推測やツッコミが殺到。不条理劇のような見た目のインパクトが、世代を問わず強い好奇心を刺激しています。
単なる建築ミスではない?行き止まり階段が生まれた「意外な建築理由」
「なぜこんな中途半端な階段を作ったのか」という疑問に対し、建築関係者や構造の専門家を取材すると、明確な建築理由と歴史的経緯が浮かび上がってきます。
最大の理由は、建物の増改築やテナント入れ替えに伴う開口部の閉塞です。かつては2階店舗への直通通路や非常口が存在していたものの、防火区画の見直しや防犯上の観点から扉を塞ぎ、壁面へと改修するケースが多々あります。
ここで疑問となるのが「なぜ階段自体を取り壊さないのか」という点です。実は、鉄骨やRC(鉄筋コンクリート)造の外階段を撤去するには多額の解体費用がかかるだけでなく、建物の構造耐力に影響を及ぼす恐れがあります。加えて、敷地境界線ギリギリに建てられた物件では、階段を撤去した後に現行法基準での再設置が困難になるリスクもあり、「撤去せずそのまま残す」という合理的判断が下された結果なのです。
ルーツは赤瀬川原平と路上観察学会!「超芸術トマソン」としての階段史
無意味な階段をカルチャーとして愛でる視点は、決して現代のSNS世代が初めて生み出したものではありません。その原点は、1972年に前衛芸術家・赤瀬川原平氏が東京・四谷で発見した「純粋階段」にあります。
上っても下りてもどこにも入れない、階段としての実用性を完全に失ったその構造物は、読売ジャイアンツで鳴り物入りで入団しながら全く打てなかった外国人助っ人ゲーリー・トマソン選手になぞらえ、「超芸術トマソン」と名付けられました。
その後、赤瀬川氏や藤森照信氏、南伸坊氏らによって結成された路上観察学会が都市の奇妙な物件を次々と記録。機能美の対極にある「無用の美学」として、サブカルチャー界隈に決定的な足跡を残しました。
『ナニコレ珍百景』でも話題!日本全国に実在する奇妙な階段スポット
テレビ朝日系の人気番組『ナニコレ珍百景』でも、全国津々浦々の不可思議な階段が度々取り上げられ、お茶の間を沸かせてきました。
例えば、隣接していた建物が解体されたことで壁面だけに取り残された屋外階段や、増築を繰り返した温泉街の迷宮のようなアプローチ階段など、場所ごとの固有の歴史がそのまま造形に表れています。土地の高低差が激しい坂の街(長崎市や尾道市、東京都文京区など)には、地形の制約と住宅密集の歴史が生んだ奇抜なアプローチが数多く現存しています。
【2026年現在】現存する奇妙な階段はどこ?珍スポットの現状と見学マナー
街歩きブームとともに「珍スポット」として訪れる人が増える一方、現在の都市環境においてこれらの階段は急速に姿を消しつつある絶滅危惧種でもあります。
耐震基準の強化や老朽化に伴う再開発、ビル建て替えラッシュにより、昭和から平成初期の痕跡を残す階段は年々解体されています。現在残されているスポットは、まさに都市の記憶を留める貴重な遺産といえます。
なお、これらの階段の多くは民有地や集合住宅の敷地内に存在します。現地を訪れて写真を撮影する際は、私有地への無断立ち入りを厳に慎み、近隣住民のプライバシーや生活環境に十分配慮するマナーが強く求められます。
【なんだこの階段は】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:SNSで見かける「壁に直撃する階段」は建築基準法に違反していないのですか?
A1:新築時に「行き止まりになる階段」を避難経路として申請することは認められません。しかし、用途変更やリノベーションの過程で非常階段としての指定を解除し、単なる既存の構造物(工作物)として残している場合は、違法建築に当たらないケースが一般的です。
Q2:赤瀬川原平氏が発見した「元祖・純粋階段」は現在も見ることができますか?
A2:東京都四谷の旅館脇にあった記念すべき「純粋階段(トマソン第1号)」は、残念ながら建物の改修および建て替えによって既に解体・消滅しています。現在は当時の写真資料や路上観察学会のアーカイブでその姿を確認できます。
Q3:街中で面白い階段を見つけた場合、SNSに投稿しても大丈夫ですか?
A3:公道から撮影可能な外観であれば問題ないケースが多いですが、個人宅の表札や車のナンバー、居住者の部屋内部が映り込まないよう加工する配慮が必要です。私道や私有地内からの撮影は避けましょう。
「なんだこの階段は」というSNS上の気軽な疑問から始まる探求は、都市開発の歴史や建築法規、そして昭和カルチャーの深淵へとつながっています。普段何気なく通り過ぎている通勤路や旅先の路地裏にも、かつて誰かが使い、時代の変化とともに役目を終えた不思議な階段が静かに佇んでいる可能性があります。スマートフォンを片手に街のディテールへ視線を移すと、日常の風景がまったく新しいエンターテインメントに変わります。