明治9年(1876年)の太政官布告以来、約140年余りにわたって「20歳」と定められていた日本の成人年齢。2022年4月の改正民法施行によって18歳へと引き下げられて以降、制度はすっかり定着したように見えますが、「一体なぜ18歳にする必要があったのか」「何を目的に法改正が行われたのか」という根本的な疑問や背景を改めて知りたいという声は後を絶ちません。
成人年齢の引き下げは、単なる年齢表記の変更にとどまらず、若者の権利拡大とそれに伴う自己責任の重さ、消費者保護のあり方など、社会全体に大きな構造変化をもたらしました。本稿では、法務省が法改正に踏み切った決定的な理由をはじめ、世界基準との違い、メリット・デメリット、そして20歳維持となった項目の根拠までを分かりやすく整理してお届けします。
【決定的な理由】一体なぜ18歳成人に?法務省が法改正に踏み切った背景

法務省が主導した民法改正により成人年齢が引き下げられた最大の理由は、「若者の自己決定権を尊重し、積極的な社会参加を促すこと」です。少子高齢化が進む日本社会において、18歳や19歳の若者を一人前の大人として認め、自らの判断で社会活動に関わってもらうことが国家的な課題となっていました。
この議論が本格化した契機は、2007年の国民投票法成立にあります。同法で投票権年齢が18歳以上と規定されたことを受けて、国会で「選挙権や民法の成人年齢についても同様に見直すべき」という附則が盛り込まれました。その後、2015年に公職選挙法改正によって選挙権年齢が18歳へと先行して引き下げられ、「政治参加が18歳から認められている以上、民法上の成人年齢も一致させるのが自然である」という法的一貫性の確保が決定打となりました。
【世界基準との比較】OECD主要国の多くが「18歳」!国際標準への合致
世界的な潮流に合わせることも、成人年齢引き下げにおける強力な動機でした。経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアをはじめとする主要先進国の8割以上が成人年齢を18歳に定めています。
グローバル化が進むなか、海外では18歳で完全な法的能力を持つ若者が、日本国内では未成年として扱われ契約や活動に制約を受けるといった「国際基準との乖離」が生じていました。世界基準に揃えることで、海外留学や国際ビジネス、起業といった分野において、日本の若者が対等な立場でチャレンジできる環境を整える狙いがありました。
【何が変わった?】18歳でできること・できないこと一覧と少年法の位置づけ
民法上の成人となったことで、18歳を迎えた若者は親の同意を得ずに多様な法律行為を行えるようになりました。主な変更点と維持された項目は以下の通りです。
【18歳(成人)で可能になったこと】
・親の同意なしでのクレジットカード契約や携帯電話の契約
・アパート等の賃貸借契約、高額商品のローン契約
・10年有効パスポートの取得
・公認会計士や司法書士、医師免許など国家資格の登録・取得
・結婚(女性の婚姻可能年齢が16歳から18歳へ引き上げられ、男女ともに18歳へ統一)
【20歳まで禁止・制限が継続されること】
・飲酒および喫煙
・競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブルの投票券購入
・養子を迎えること(養親になる要件)
・大型・中型自動車運転免許の取得(一定の特例を除く)
なお、民法改正と同時に少年法も改正されました。18歳・19歳は「特定少年」と位置づけられ、原則として家庭裁判所へ送致される枠組みを残しつつも、起訴された場合には実名報道が可能になるなど、負うべき刑事責任の範囲が拡大されています。
なぜ飲酒・喫煙・競馬は「20歳維持」なのか?健康被害と依存症リスクの境界線
「18歳で成人なら、お酒やタバコも解禁されるのではないか」と考えられがちですが、これらは明確な意図を持って20歳の規制が維持されました。その理由は、脳の発達や健康被害、依存症リスクに関する医学的知見に基づいています。
20歳未満の身体は成長段階にあり、アルコールの摂取は脳神経や肝臓などの臓器に深刻な悪影響を及ぼしやすいとされています。喫煙によるニコチン依存や発がんリスクも若年層ほど高くなります。加えて、公営ギャンブルについてもギャンブル依存症に陥る危険性を防ぐ観点から、民法上の成年年齢とは切り離して従来の年齢制限を堅持する判断が下されました。
成人年齢引き下げのメリットとデメリット|契約トラブルと「未成年者取消権」の消滅
若者の自立を促す法改正ですが、権利の拡大はリスクと表裏一体です。メリットとデメリットの双方を正しく理解しておく必要があります。
◆ 主なメリット
自分の意思で進学・就職・住居確保の手続きを進められるため、起業や投資など経済活動への早期参入が可能になります。親の家庭環境に左右されず、自立した生活基盤を早期に構築できる点が大きな利点です。
◆ 主なデメリットと懸念点
最大のリスクは、民法上の「未成年者取消権」が18歳・19歳には適用されなくなった点です。従来は悪質な情報商材や高額エステなどの契約を結んでしまっても、親の同意がないことを理由に無条件で契約を取り消すことができました。しかし成人となった現在では契約が法的に有効となり、若者をターゲットにした詐欺的商法や多重債務などの消費者トラブルに巻き込まれるケースが深刻化しています。
自治体ごとの対応が分かれた「成人式」|現在の対象年齢と参加の実態
法改正時に大きな議論を呼んだのが「成人式は何歳で開催するのか」という問題でした。18歳を対象にすると、多くの若者が高校3年生の大学受験や就職活動と時期が重なるため、経済的・精神的な負担が過大になるという懸念が全国の保護者や教育関係者から寄せられました。
その結果、法改正以降も全国の9割以上の自治体が式典を「20歳」を対象に実施しています。名称を「二十歳の集い」「二十歳を祝う会」などに変更し、落ち着いた環境で旧友と再会できる形を選択する自治体が定着しています。
【成人年齢引き下げの理由】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:18歳成人が施行されたのはいつからですか?
A1:2022年(令和4年)4月1日に改正民法が施行され、この日以降に18歳を迎えた方が順次成人となっています。
Q2:18歳になったら高校生でもクレジットカードを作れますか?
A2:法律上は単独で契約可能です。ただし、カード会社ごとの審査基準により「高校生を除く18歳以上」と規定している企業も多いため、各社の申込規約を確認する必要があります。
Q3:18歳成人の契約トラブルを防ぐにはどうすればよいですか?
A3:契約内容を安易に即決せず確認することに加え、万が一トラブルに巻き込まれた際は、速やかに消費者ホットライン「188(いやや!)」へ相談することが推奨されています。
成人年齢の引き下げは、少子高齢化を背景とした若者の社会参加推進と、世界基準への調和を目指した必然的な法改正でした。18歳から自らの意思で人生の選択肢を広げられる環境が整ったことは、次世代を担う若者にとって大きなチャンスです。
一方で、保護の傘から早く外れることによる消費者トラブルのリスクも現実のものとなっています。法制度を正しく理解し、自立に伴う責任を自覚するとともに、学校教育における金融リテラシー指導や周囲のサポート体制を活かしていくことが、これからの社会において極めて重要な鍵となります。