働き方の多様化が進み、副業やダブルワークを掛け持ちする人が急増しています。そうした中で、勤務先から突然渡されて戸惑う書類の代表格が「従たる給与についての扶養控除等申告書」です。通常の扶養控除申告書と名前が似ているため、「適当に書いて出せばいい」「よくわからないから放置している」というケースも少なくありません。
しかし、この書類の仕組みを理解せずに放置すると、毎月の給与から差し引かれる所得税が跳ね上がり、手取りが大幅に減ってしまう恐れがあります。本記事では、主たる給与との違いや税金が高くなる構造的な理由、正しい書き方の注意点までを整理して解説します。
【基本解説】「主たる給与」と「従たる給与」の決定的な違いとは?
複数の会社から給料を受け取っている場合、税法上は給与が2種類に明確に区分されます。生活の基盤となる最も収入の多い勤務先から支払われる給与を「主たる給与」、それ以外の勤務先(副業やアルバイト先など)から支払われる給与を「従たる給与」と呼びます。
税務上の最大の相違点は、源泉徴収税額表の適用区分です。主たる給与を支払う企業には通常の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、税率が低く抑えられた「甲欄」で毎月の源泉徴収が行われます。一方、従たる給与を支払う企業では、原則として高い税率が設定された「乙欄」が適用される仕組みになっています。
「ダブルワークの年末調整はどっちに出すのか」と迷う方が多いですが、通常の扶養控除申告書を出せるのは国内で1社のみです。複数の会社に通常の申告書を重複提出することは法律で認められていません。
なぜ手取りが激減?放置すると税金が高くなる決定的な理由
副業先で何も申告書類を出さない場合、あるいは制度を知らずに放置した場合、副業先での給与計算には「乙欄」の税率がそのまま適用されます。これが「副業を始めたら想像以上に手取りが少ない」と感じる最大の原因です。
甲欄であれば、月収が一定額以下の場合の源泉徴収税額はゼロまたは少額に抑えられます。しかし、乙欄が適用されると給料の額面が数万円程度であっても最初から高い税率(約3%〜数十%)で容赦なく源泉徴収されます。例えば副業で月8万円を稼いでも、乙欄課税によって数千円以上の所得税が天引きされ、手元に残る現金が目減りします。
そこで活用されるのが「従たる給与についての扶養控除等申告書」です。この書類を副業先へ提出することで、本業で控除しきれなかった扶養親族の枠を副業側に割り振り、副業先での毎月の税負担を緩和させることが可能になります。
【2026年最新】国税庁の申告書様式と正しい書き方の注意点
国税庁が定めている「従たる給与についての扶養控除等申告書」の様式は、一見すると本業用の扶養控除申告書と酷似していますが、記入におけるルールが根本的に異なります。
最も重要なルールは、扶養親族の人数を本業と重複させてはならないという点です。例えば、養う扶養親族(配偶者や子どもなど)が合計2名いる場合、本業側に2名とも記載しているなら、副業側の従たる給与申告書には扶養親族を記載できません。
具体的な書き方の手順は以下の通りです。
- 主たる給与の支払者欄:本業の会社名、法人番号、所在地を正確に記載します。
- 従たる給与の支払者欄:申告書を提出する副業先の会社名などを記載します。
- 控除対象扶養親族の配分:本業の給与だけでは控除しきれない扶養親族がいる場合のみ、その対象者を副業側の申告書に記入します(例:扶養親族3名のうち、本業に2名、副業に1名を割り振る)。
2026年現在、年末調整関連の手続きは企業の電子化が定着しており、Web申請画面上で主たる給与と従たる給与の振り分けを選択するインターフェースも増えています。画面の案内に沿って誤った重複入力を行わないよう注意が必要です。
副業で「扶養控除申告書」は2枚出せる?2ヶ所以上給与の年末調整ルール
「副業先からも扶養控除申告書を出すように言われたから、本業と同じ書類を2枚書いて出した」というトラブルが後を絶ちません。前述の通り、通常の「給与所得者の扶養控除等申告書」を2箇所に提出することは税法違反となります。
もし誤って2社に通常の申告書を提出してしまうと、双方が「甲欄」として税金を低く計算してしまいます。その結果、年末調整の段階や税務署の突合処理で重複が発覚し、後から多額の追徴課税や延滞税を請求されるリスクが生じます。
2ヶ所以上から給与を受け取っている場合、年末調整を受けられるのは「主たる給与」を支払っている本業の1社のみです。従たる給与を支払う副業先では年末調整を行うことができないため、副業先からは年末に「源泉徴収票」を受け取るだけで処理を終える形になります。
払いすぎた税金を取り戻す!従たる給与がある人の確定申告手順
副業先で乙欄の高い税率で源泉徴収された場合、あるいは「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出して一部の控除を適用していた場合でも、最終的な税額の精算は確定申告で行います。
確定申告を行うことで、本業の給与と副業の給与を合算し、年間全体の正しい所得に応じた所得税額が再計算されます。副業先で高い税率(乙欄)により天引きされていた税金は、確定申告を通じて還付金として手元に戻ってくるケースが非常に多いのが実情です。
手続きの流れはシンプルです。翌年2月中旬から3月中旬の申告期間に、本業と副業の「源泉徴収票」をすべて揃え、国税庁の「確定申告書作成コーナー」やマイナポータル連携を利用してスマートフォン等から合算申告を行います。副業の給与所得が年間20万円以下であっても、天引きされた税金の還付を受けるためには確定申告が有効となります。
【従たる給与についての扶養控除等申告書】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:扶養親族が一人もいない独身の場合、副業先にこの申告書を出す意味はありますか?
A1:扶養親族がいない場合、従たる給与の申告書を提出しても控除枠を移譲できないため、副業先での税額は乙欄のまま変わりません。提出する実益は薄いですが、会社側から書類提出のルールとして求められた場合は、扶養親族欄を空欄にして提出します。
Q2:副業先に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を出すと、本業の会社に副業がバレますか?
A2:この申告書を提出したこと自体が本業へ直接通知されることはありません。ただし、確定申告後に自治体から本業の会社へ送られる住民税の通知書(税額の変動)を通じて副業が判明するケースがあります。副業バレを防ぎたい場合は、確定申告時に住民税の徴収方法を「自分で納付(普通徴収)」にチェックを入れる対策が一般的です。
Q3:年末調整で副業の分を合算して本業の会社で手続きしてもらうことはできますか?
A3:できません。年末調整は各雇用主が自社で支払った給与についてのみ行うものです。異なる会社から支払われた給与を1社で合算して年末調整を行うことは制度上不可能なため、必ずご自身で確定申告を行って合算精算する必要があります。
副業や掛け持ちバイトを行う際、「従たる給与についての扶養控除等申告書」の役割を理解しているかどうかで、毎月の資金繰りや最終的な手取り額に大きな違いが生まれます。
副業先で高い税金が引かれていても慌てる必要はありません。書類の提出ルールを正しく把握し、年度末に本業・副業双方の源泉徴収票を揃えて確定申告を行えば、払いすぎた所得税はしっかりと手元に取り戻すことができます。自身の就労形態に合わせた正確な申告を行い、損のないスマートな副業ライフを送りましょう。