高校数学の「数学II」で学ぶ相加平均と相乗平均の大小関係は、2変数であれば誰もが一度は触れる頻出テーマです。ところが、変数が3つに増えた瞬間に「公式の形があやふやになる」「証明の記述で手が止まる」「いつ使えばいいのか見抜けない」とつまずく受験生が急増します。
国公立二次試験や難関私大入試において、3文字の相加相乗平均は計算を大幅にショートカットする強力な武器となります。公式の基本構造から入試で必須となる因数分解を用いた美しい証明手順、そして受験生を悩ませる「等号成立条件の落とし穴」まで、数学的な本質を論理的かつスッキリと解き明かします。
【基本公式】3変数の相加相乗平均とは?2変数との違いと成立の前提

まず押さえておきたいのが、3変数における相加相乗平均の正確な公式です。実数 $a, b, c$ がすべて正の数($a > 0, b > 0, c > 0$)であるとき、以下の大小関係が常に成り立ちます。
$$\frac{a+b+c}{3} \geqq \sqrt[3]{abc}$$
左辺は3つの数値の算術平均(相加平均)、右辺は3つの積の3乗根(相乗平均)を表しています。2変数の場合($(a+b)/2 \geqq \sqrt{ab}$)と構造は同じですが、分母が「3」になり、根号が「3乗根(立方根)」になる点に注意が必要です。
答案作成における最大の注意点は、「すべての変数が正の実数であること」を解答の冒頭で必ず明記することです。負の数が含まれると3乗根の内部や不等号の向きに矛盾が生じるため、前提条件を書き忘れるだけで手痛い減点対象になります。
【決定版】なぜ成り立つ?因数分解公式(a³+b³+c³-3abc)を用いた証明手順
相加平均と相乗平均の大小関係の証明問題は、国公立大の記述式試験で定期的に出題されます。3変数の証明において最も美しく、教科書傍用問題集でも王道とされるのが、高校数学を代表する因数分解公式を利用したアプローチです。
最初に、数学Iで学ぶ有名な因数分解の公式を振り返ります。
$$x^3 + y^3 + z^3 - 3xyz = (x + y + z)(x^2 + y^2 + z^2 - xy - yz - zx)$$
この右側の2つ目のカッコ内を平方完成の形に変形すると、次のように書き換えられます。
$$x^2 + y^2 + z^2 - xy - yz - zx = \frac{1}{2} \{(x - y)^2 + (y - z)^2 + (z - x)^2\}$$
ここで、$a > 0, b > 0, c > 0$ に対して、$x = \sqrt[3]{a}, y = \sqrt[3]{b}, z = \sqrt[3]{c}$ と置きます。$x, y, z$ はすべて正の実数であるため、$x + y + z > 0$ です。また、実数の2乗の和は常に0以上であるため、以下の関係が導かれます。
$$a + b + c - 3\sqrt[3]{abc} = (x+y+z) \cdot \frac{1}{2} \{(x - y)^2 + (y - z)^2 + (z - x)^2\} \geqq 0$$
両辺を3で割ることで、目的の不等式 $\frac{a+b+c}{3} \geqq \sqrt[3]{abc}$ が証明されます。因数分解公式が不等式の証明という全く異なる分野で鮮やかに結実する、数学の論理的な美しさが詰まった証明法です。
【等号成立条件】「a=b=c」の確認を怠ると不合格?記述試験の落とし穴
相加相乗平均を不等式の証明や最大・最小問題で使う際、最も採点官が目を光らせているのが等号成立条件の記述です。
先ほどの証明式を観察すると、全体が0になる(すなわち等号が成立する)のは、$(x - y)^2 + (y - z)^2 + (z - x)^2 = 0$ となるときに限られます。実数の2乗の和が0になる条件は、それぞれの項が同時に0になることですから、$x - y = 0$ かつ $y - z = 0$ かつ $z - x = 0$、すなわち $x = y = z$ です。
これを元の変数に戻すと、等号成立条件は極めてシンプルに「$a = b = c$」となります。
「不等式が成り立つこと」と「等号が実際に成立する変数の値が存在すること」は論理的に別物です。特に最小値を求める問題では、等号を満たす正の実数が存在することを示さなければ、その値が本当に最小値である証拠にはなりません。答案には必ず「等号成立は $a = b = c$ のとき」と添える習慣を徹底してください。
【実践パターン】3文字の相加相乗平均はいつ使う?最小値問題の解法とコツ
模試や入試本番で「この問題で3変数の相加相乗平均を使うべきか?」を見抜く判断基準は明快です。それは、「3つの変数の和の最小値を求めたい場面で、それらの積を計算すると文字が相殺されて定数になる場合」です。
代表的な典型入試頻出問題を見てみましょう。
【例題】
$x > 0$ のとき、$f(x) = x^2 + \frac{16}{x}$ の最小値を求めよ。
この式を単純に2変数の相加相乗平均に当てはめようとすると、積が $x^2 \cdot \frac{16}{x} = 16x$ となり、文字 $x$ が消去できません。そこで、分母にある $x$ の次数に合わせて、分子の項を分解します。
$$f(x) = x^2 + \frac{8}{x} + \frac{8}{x}$$
$x > 0$ より $x^2 > 0, \frac{8}{x} > 0$ です。ここで3つの正の数 $x^2, \frac{8}{x}, \frac{8}{x}$ に対して3変数の相加相乗平均を適用します。
$$\frac{x^2 + \frac{8}{x} + \frac{8}{x}}{3} \geqq \sqrt[3]{x^2 \cdot \frac{8}{x} \cdot \frac{8}{x}} = \sqrt[3]{64} = 4$$
両辺に3を掛けると、以下のようになります。
$$x^2 + \frac{8}{x} + \frac{8}{x} \geqq 12$$
等号成立条件は $x^2 = \frac{8}{x}$、すなわち $x^3 = 8$ より $x = 2$(実数解)です。$x = 2 > 0$ は前提条件を満たすため、確かに $x = 2$ のとき最小値 12 をとることが示せました。
数学IIの微積分(増減表を書く解法)を使わずとも、項を適切に分割するだけで瞬時に最小値を特定できるのがこの手法の絶大な強みです。
【発展と拡張】コーシー・シュワルツの不等式との違い&n変数への数学的帰納法
不等式の証明や値域の評価において、相加相乗平均と並んで頻出するのが「コーシー・シュワルツの不等式」です。両者の最大の違いは前提条件と適用範囲にあります。
相加相乗平均が「正の実数」に限定され、主に「逆数関係を含む積の定数化」に威力を発揮するのに対し、コーシー・シュワルツの不等式($(a_1^2+a_2^2+a_3^2)(x_1^2+x_2^2+x_3^2) \geqq (a_1x_1+a_2x_2+a_3x_3)^2$)は「任意の実数(負の数を含む)」で成立し、ベクトルの内積や2次形式の評価で力を発揮します。
さらに視野を広げると、相加相乗平均は4変数、ひいては一般の $n$ 変数へと拡張可能です。
$$\frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1 x_2 \cdots x_n} \quad (x_k > 0)$$
一般の $n$ 変数に対する証明は、通常の数学的帰納法とは異なり、「まず $n = 2^k$(2の累乗)で成り立つことを示し、そこから $n-1$ へと後ろ向きに帰納する」という「コーシーの逆向き帰納法」や、関数の凸性を利用した「イェンセンの不等式」を用いるのが有名です。難関大の誘導付き大問として出題されることもあるため、知っておくと背景理解が深まります。
【相加相乗平均(3変数)】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2変数の相加相乗平均を2回繰り返して、3変数の不等式を証明することはできますか?
A1:注意が必要です。2変数公式を部分的に適用して不等式を作ることは可能ですが、等号成立条件が各段階で一致しない場合があり、正しい最小値が得られない危険性があります。3つの変数を一度に扱う場合は、無理に2変数公式を多段適用せず、3変数の公式または因数分解による差の評価を用いるのが安全です。
Q2:3変数の相加相乗平均の公式は、共通テストや記述試験で証明なしに使っても大丈夫ですか?
A2:共通テスト(マーク式)では結果のみを利用するため全く問題ありません。国公立二次試験などの記述試験においては、学習指導要領上は2変数が基本とされているため、問題文に「3変数の相加相乗平均を用いてよい」という指示がない場合は、前述の因数分解を用いた簡単な証明を添えるか、誘導の有無を確認して記述するのが無難です。
Q3:最小値問題で相加相乗平均を使うべきか、微分(導関数)を使うべきか迷ったときの基準は?
A3:変数が「$x^2 + \frac{a}{x}$」や「$x + \frac{a}{y} + \frac{b}{z}$」のように、項の積をとったときに変数が綺麗に打ち消し合って定数になる形であれば相加相乗平均が最速です。定数にならない場合や、区間の端点(閉区間の境界)で最小値をとる可能性がある場合は、迷わず微分して増減表を作成するルートを選択してください。
3変数の相加相乗平均は、一見すると計算が複雑に見えますが、その根底にあるのは「$a^3+b^3+c^3-3abc$ の因数分解」と「対称性」という数学の基礎基本です。
正の数条件の確認、積を定数にする項の分割テクニック、そして「$a=b=c$」の等号成立条件のチェックという一連のプロセスを身体に染み込ませておくことで、入試本番の難問でもスマートに得点を重ねることができます。類似の典型問題を反復演習し、解答をスムーズに記述できる確かな論理力を身につけておきましょう。