健康診断の問診票や毎朝の測定時、血圧計のディスプレイの片隅に必ず表示されている「mmHg」という記号。見慣れた単位でありながら、いざ声に出して読もうとすると「ミリミリエイチジー?」「エムエムエイチジー?」と戸惑った経験を持つ人は少なくありません。
現在流通している血圧計の大半はデジタル式ですが、デジタル画面に表示される数値の横にも変わらず「mmHg」が刻まれています。このアルファベットの組み合わせが何を意味し、なぜ2026年の現在に至るまで「水銀」をベースにした単位が使われ続けているのか、その歴史的背景と測定値の正しい読み解き方を掘り下げます。
【正式な読み方】血圧の単位「mmHg」はどう読む?医療現場での3つの呼び名

血圧の数値を表す「mmHg」には、公式な学術的呼称から医療現場の略称まで、複数の読み方が存在します。一般的に広く用いられている読み方は次の3パターンです。
最も標準的な読み方は「ミリメートルエイチジー」です。長さの単位である「mm(ミリメートル)」と、水銀の元素記号である「Hg(エイチジー)」をそのままアルファベット読みしたもので、教育機関や一般的な解説で最も多用されます。
学術的・物理的な正式名称としては「ミリ水銀柱(みりすいぎんちゅう)」と読みます。これは「水銀の柱を何ミリメートル押し上げられる圧力か」を表す日本語訳に由来します。なお、mmHgの英語における正式名称は「millimeter of mercury(ミリメーター・オブ・マーキュリー)」であり、国際的な医学論文等ではこの英語表現が標準です。
一方で、医師や看護師が慌ただしく行き交う臨床現場では、単に「ミリ」と略して呼ばれるケースが日常茶飯事です。例えば「血圧が上120、下80」という数値を「120の80ミリ」と表現する光景は、医療現場で極めて自然に使われています。
【歴史と由来】なぜ血圧に「水銀」が使われるのか?驚きの誕生秘話と測定原理
国際単位系(SI)における圧力の標準単位は「Pa(パスカル)」や「hPa(ヘクトパスカル)」です。気象情報や工学分野ではパスカルが使われるにもかかわらず、医療現場では頑なに「mmHg」が生き残っています。この疑問を解く鍵は、水銀血圧計が開発された当時の物理的原理にあります。
19世紀末、イタリアの内科医シピオーネ・リヴァ=ロッチが近代的なカフ式血圧計を発明しました。当時、心臓が血液を押し出す強い圧力を目に見える形で測定するためには、液体をガラス管の中で押し上げる仕組みが必要でした。しかし、仮に水を用いて血圧(約120mmHg)を測ろうとすると、1.6メートル以上もの巨大なガラス管が必要になってしまいます。
そこで白羽の矢が立ったのが、液体の金属である「水銀」でした。水銀の比重は水の約13.6倍と非常に重いため、わずか十数センチメートルのコンパクトなガラス管で人間の強い血圧を正確に押し留め、高さを目視測定できました。この「水銀柱を何ミリ押し上げたか」という直感的な測定原理が極めて完成度高かったため、世界共通の医療基準として定着した経緯があります。
現在では水俣条約などの環境規制により、医療現場から水銀そのものを使用した血圧計は姿を消し、電子センサーを用いたデジタル血圧計に置き換わりました。それでもなお「mmHg」が使われ続けるのは、過去100年以上にわたって蓄積された世界中の膨大な医学データや臨床研究がすべてmmHg基準で記録されているためです。単位をパスカルに変更すると、世界中の医師や患者に混乱を招くリスクがあることから、現在も国際的に「mmHg」が特例として認可されています。
【上と下の違い】収縮期血圧と拡張期血圧の意味をわかりやすく紐解く
血圧を測ると必ず「上」と「下」の2つの数値が示されます。日常生活では「上が130」「下が85」などと表現されますが、この2つの数値が持つ生体学的な意味には明確な違いがあります。
「上の血圧」の正式名称は「収縮期血圧(最高血圧)」です。心臓がギュッと縮んで全身に血液を力強く送り出した瞬間、血管壁にかかる最も強い圧力を指します。ホースの口を指で強く押さえたときのように、血管内に最大の負荷がかかっている状態です。
対して「下の血圧」は「拡張期血圧(最低血圧)」と呼ばれます。血液を送り出した後の心臓が元の大きさに戻り、次の拍動に向けて血液を溜め込んでいる(拡張している)瞬間の圧力です。心臓が休んでいるタイミングであっても、血管のしなやかさによって一定の圧力が保たれており、このときの圧力が最低血圧として記録されます。
最高血圧と最低血圧の違いは、心臓のポンプ機能の状態だけでなく、血管自体の老化(動脈硬化)の度合いを推し量る重要なバロメーターです。血管が硬くなると最高血圧が跳ね上がり、最低血圧との差(脈圧)が広がりやすくなります。
【2026年最新基準】血圧の正常値の目安は?診察室と家庭血圧の違いに注意
高血圧の予防と管理において、日本高血圧学会のガイドラインが示す基準値を正確に把握しておく必要があります。特に意識すべきなのは、「病院の診察室で測る数値」と「自宅で測る家庭血圧」で基準値が異なる点です。
| 区分 | 診察室血圧(病院での測定) | 家庭血圧(自宅での測定) |
|---|---|---|
| 正常血圧(至適) | 120/80 mmHg 未満 | 115/75 mmHg 未満 |
| 正常高値血圧 | 120〜129 / 80 mmHg 未満 | 115〜124 / 75 mmHg 未満 |
| 高値血圧(要注意) | 130〜139 / 80〜89 mmHg | 125〜134 / 75〜84 mmHg |
| 高血圧(治療対象) | 140/90 mmHg 以上 | 135/85 mmHg 以上 |
病院では白衣を着た医師の前で緊張し、無意識に数値が高く出る「白衣高血圧」が起こりやすいため、診察室基準は家庭基準よりも5mmHg高く設定されています。
日常の健康管理において最も信頼性が高いのは「家庭血圧の基準値(125/75mmHg未満)」です。リラックスした環境で継続的に記録された数値こそが、将来の心筋梗塞や脳卒中リスクを予測する確かなデータとなります。
【血圧測定値の見方】日々の測定を正しく健康管理に活かす実践テクニック
血圧は1日の中でも常に変動しており、測り方ひとつで数値が10〜20mmHg前後ブレることも珍しくありません。正確な測定値を得るためには、正しい測定手順を守る必要があります。
測定タイミングは「朝の起床後1時間以内(排尿後・朝食前・服薬前)」と「夜の就寝前」の1日2回が鉄則です。椅子に深く腰掛け、1〜2分程度静かに呼吸を整えてからカフ(腕帯)を心臓と同じ高さに合わせて測定します。測定中の会話や脚組みは数値の上昇を招くため禁物です。
日々のデータを見返す際は、1回ごとの単発の数値に一喜一憂するのではなく、「朝と夜それぞれの1〜2週間の平均値」に着目します。朝の血圧だけが異常に高い「早朝高血圧」は心血管疾患のリスクを高める典型的なサインであるため、見逃さないよう注意深い観察が大切です。
【血圧の単位と読み方】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:血圧計の「mmHg」を英語圏の人はどう発音していますか?
A1:一般会話では「millimeters of mercury」と正式に呼ぶほか、日常的には「m-m-H-g」とアルファベットをそのまま読んだり、単に数値のみ(例:120 over 80)でやり取りしたりすることが一般的です。
Q2:なぜ「Pa(パスカル)」に単位を統一しないのですか?
A2:1970年代以降の国際的な単位統一化の流れの中でも、血圧に関しては過去の膨大な臨床データとの整合性維持や、世界中の医療現場での誤認事故を防ぐ目的から、国際度量衡委員会によって「mmHg」の併用が特別に認められ続けています。
Q3:手首式と上腕式の血圧計では、表示される単位や精度に違いはありますか?
A3:単位はいずれも「mmHg」で共通です。精度面では心臓の高さと血管の太さが安定している「上腕式」が医療現場および学会で推奨されていますが、手首式も正しい姿勢と高さを保てば日常の傾向把握に十分役立ちます。
血圧の単位「mmHg(ミリメートルエイチジー / ミリ水銀柱)」には、人類が循環器の謎に挑み、試行錯誤を重ねて生み出した医療技術の歴史が凝縮されています。水銀を使わない時代になってもなお受け継がれているこの単位は、私たちの健康を守るための世界共通言語です。
何気なく眺めていた数値の背景や測定原理を正しく理解することは、自身の体調変化に対する解像度を高める第一歩です。日々の家庭血圧を正しく測定・記録し、血管の健康維持に向けた確実なセルフケアに役立ててください。