富士登山における王道といえば吉田ルートや富士宮ルートが知られていますが、山歩きを愛する経験者や混雑を避けて上質な絶景を味わいたい登山者の間で絶大な支持を集めているのが「プリンスルート」です。2008年に当時皇太子だった現天皇陛下が実際に登られたことから名付けられたこのコースは、富士宮ルートからスタートして雄大な宝永山火口を巡り、御殿場ルートへと合流して山頂を目指す贅沢な縦走ルートとして知られています。
入山規制やオーバーツーリズム対策が本格化した2026年現在、富士山の圧倒的なスケール感を味わいつつ、人混みを避けてマイペースに歩ける富士山の混雑回避ルートとしても再び熱い視線が注がれています。本稿では、プリンスルートがなぜ多くの登山者を惹きつけるのか、その魅力や難易度、所要時間、そして安全に踏破するための注意点を詳しく紐解きます。
【誕生の背景】天皇陛下が歩まれた富士登山の経緯とプリンスルートの由来
プリンスルートと呼ばれる特別なコースが生まれたきっかけは、2008年8月に行われた皇太子殿下(現天皇陛下)の富士登山に遡ります。日本山岳会の会員でもあり、幼少期から山歩きを深く愛されてきた陛下が、歴史的景勝地や地質学的見どころをじっくり味わえる行程として選ばれたのがこのルートでした。
陛下は富士宮口五合目から出発し、巨大な宝永火口の底を通過して宝永山(標高2,693m)を経由。その後、御殿場ルート六合目へとトラバースして宿泊し、翌朝見事に剣ヶ峰登頂を果たされました。下山には豪快な砂礫の下り坂である御殿場ルートの「大砂走り」を利用されるという、富士山の自然美と登山史を凝縮した行程でした。この歩みを静岡県などが記念して案内マップを整備し、一般登山者の間でも「プリンスルート」の名で広く定着しました。
【なぜ選ばれるのか】宝永山火口から大砂走りまで!混雑回避と絶景を両立する魅力
富士山プリンスルートが多くの登山者に選ばれる最大の理由は、「混雑回避」と「変化に富んだ圧倒的景観」の奇跡的なバランスにあります。五合目の標高が約2,400mと最も高く歩行距離を短縮しやすい富士宮ルートの利点と、登山者数が比較的少なく静かな山歩きが楽しめる御殿場ルートの利点が見事に融合しています。
序盤のハイライトとなる宝永山火口ルートでは、1707年の宝永大噴火で形成された巨大なクレーターの縁を歩きます。荒涼とした赤茶色の岩肌と巨大な噴火口を間近に見上げる光景は、まるで異惑星をトレッキングしているかのような迫力です。さらに下山時には、一歩で数メートルを一気に駆け下りることができる大砂走りの爽快感を味わえるため、登りから下りまで退屈する瞬間が一切ありません。
【難易度と所要時間】日帰りは可能?マップで読み解く標準コースタイムと行程
富士山プリンスルートの難易度は、一般的な吉田ルートや富士宮ルート単体と比べると「中級者向け」に位置づけられます。標準的な富士山プリンスルートの所要時間は、登りで約6時間〜8時間、下りで約3時間〜4時間、合計で約9時間〜12時間のロングトレイルとなります。
体力に自信があるトレイルランナーなどを除き、富士山プリンスルートの日帰り行程は高山病や疲労遭難のリスクが高いため推奨されません。標高2,400mの富士宮五合目からスタートし、御殿場ルート七合目から八合目付近の山小屋で1泊、翌朝山頂へ向かい大砂走りを経て御殿場口新五合目へ下山する1泊2日の行程が王道であり、最も安全です。
【核心部の攻略】宝永山「馬の背」の注意点と富士宮・御殿場ルート縦走のコツ
この縦走において最大の体力的な難所となるのが、宝永山火口から御殿場ルートへ抜ける途中に位置する「馬の背(宝永山馬の背)」の急登です。火山砂利が深く堆積した斜面は、一歩踏み込んでも足元がズリズリと滑り落ち、実質「二歩進んで一歩下がる」ような厳しい登りを強いられます。
馬の背での体幹ブレやスリップを防ぐためには、トレッキングポールを活用して推進力を分散させることが不可欠です。また、稜線上に出ると強烈な西風が吹き抜ける突風地帯となるため、急な突風による転倒や滑落には十分な警戒が必要です。一気に登ろうとせず、小さな歩幅で一定のリズムを保ちながら高度を上げていくのが疲労を最小限に抑える鉄則です。
【装備と宿泊計画】初心者が揃えるべきギアとおすすめ山小屋の選び方
プリンスルートの登山口(富士宮五合目)と下山口(御殿場五合目)は場所が異なるため、アクセスには富士宮駅や御殿場駅を結ぶ登山バスの連携確認が必須となります。マイカー利用の場合はパーク&ライド用の駐車場と連絡バスのダイヤを事前にしっかり把握しておきましょう。
装備面では、足首を保護するハイカットの登山靴に加え、大砂走りでの砂や小石の侵入を完璧に防ぐ「ショートスパッツ(ゲイター)」と防塵マスクが必須アイテムとなります。山小屋宿泊においては、御殿場ルート七合九勺の「赤岩八合館」や七合五勺の「砂走館」など、山頂へのアタックと大砂走りへの接続が良い山小屋を早期に予約することが快適な山行への近道です。
【プリンス ルート 富士山】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:登山初心者でもプリンスルートに挑戦できますか?
A1:完全な登山初心者にはややハードルが高いコースです。砂礫の急登や足場の不安定な火口周辺を長時間歩くため、事前に低山や中級山岳で長時間の歩行トレーニングを行い、しっかりとした登山装備を整えた上で経験者と同行することをお勧めします。
Q2:登山口と下山口が違う場合、車はどうすればいいですか?
A2:富士宮口五合目へ向かうシャトルバスの発着拠点(水ヶ塚公園駐車場など)に車を停め、下山後は御殿場口新五合目から路線バスやタクシーを乗り継いで水ヶ塚駐車場へ戻るルートが一般的です。公共交通機関(JR新富士駅・富士宮駅・御殿場駅)を利用したアプローチも非常にスムーズです。
Q3:プリンスルートのおすすめ登山時期はいつですか?
A3:富士宮ルートおよび御殿場ルートの開通期間である7月上旬から9月上旬が適期です。特に梅雨明けの7月下旬から8月下旬にかけては天候が安定しやすく、雄大な火口美と御来光をベストコンディションで楽しむことができます。
富士山プリンスルートは、単に最高峰を目指すだけでなく、富士山が持つ地質学的な荒々しさと雄大な自然美を五感全体で味わい尽くせる唯一無二のトレイルです。皇室の歴史に思いを馳せながら、混雑を離れて静寂と対話する時間は、まさに大人のための贅沢な山旅と言えます。
事前の綿密な山小屋予約、馬の背や大砂走りに対応する万全の装備、そして無理のない行程設計を整え、富士山の魅力を凝縮したプリンスルートの感動をぜひ現地で体感してください。