幼い頃から音楽の授業や合唱、カラオケなどで親しんできた「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」。あまりに自然に使っているため、ふと「これは何語なのだろう?」と疑問に思ったことはないでしょうか。英語だと思われがちですが、実は英語圏の楽譜では別の表記が主流です。
調査を進めると、この音名の発祥には1000年以上の歴史と、中世ヨーロッパのキリスト教文化、そしてある修道士の画期的なアイデアが深く関わっていることが判明しました。日常に溶け込む音階のルーツと、最初の音が「ド」と呼ばれるようになった真相を詳しく紐解きます。
【結論】ドレミファソラシドは何語?発祥は「イタリア語」と「中世ラテン語」

結論から言うと、私たちが口ずさむ「ドレミファソラシド」はイタリア語です。ただし、単にイタリアで生まれた単語というわけではなく、原点を辿ると11世紀の中世カトリック教会で歌われていた「ラテン語の讃美歌」に行き着きます。
クラシック音楽の本場であるイタリアで記譜法や音楽理論が体系化された結果、イタリア語の音名が世界中へ普及しました。一方、英語圏では「C・D・E・F・G・A・B」というアルファベット表記が基本であり、日常的な会話以外で「Do Re Mi...」を絶対的な音名として使う場面は限られています。
誕生のきっかけは修道士「グイード・ダレッツォ」と『聖ヨハネ賛歌』
ドレミの音階を生み出したのは、11世紀前半に活躍したイタリアのベネディクト会修道士グイード・ダレッツォ(Guido d'Arezzo)です。当時の聖歌隊は楽譜を視覚的に読む仕組みが乏しく、膨大な旋律をすべて耳で聴いて暗記しなければなりませんでした。
指導の難しさに直面したグイードは、誰もが知る『聖ヨハネ賛歌(Ut queant laxis)』というラテン語の讃美歌に着目します。この歌は、各小節の歌い出しが1音ずつ高くなる階段状のメロディで構成されていました。そこで各節の最初のシラブル(音節)を抜き出して音階の目印にしたのが、ドレミの始まりです。
当時の歌詞と音の対応関係は以下の通りです。
・第1節:Ut queant laxis(ウト)
・第2節:Resonare fibris(レ)
・第3節:Mira gestorum(ミ)
・第4節:Famuli tuorum(ファ)
・第5節:Solve polluti(ソル)
・第6節:Labii reatum(ラ)
これが、ドレミファソラシドの順番の理由です。当初は「ウト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」という6つの音(ヘクサコード)だけで運用されていました。
最初は「ウト」だった?『ド』に変わった驚きの理由と「シ」の誕生秘話
ここで1つの疑問が浮かびます。なぜ最初の音「ウト(Ut)」が、現在の「ド(Do)」に変わったのでしょうか。
理由は極めて実用的で、母音で始まる「Ut」は発声練習の際に声が詰まりやすく歌いにくかったためです。17世紀、イタリアの音楽理論家ジョヴァンニ・バッティスタ・ドーニらが、開口母音で発声しやすい「Do」へと改称を提案しました。この「Do」の由来には諸説あり、ラテン語で「主(神)」を意味するDominus(ドミヌス)の頭文字から取られた説や、提唱者ドーニ(Doni)自身の姓にちなんだ説が有力視されています。
また、もともと存在しなかった7番目の音「シ(Si)」は、16世紀末から17世紀にかけて追加されました。『聖ヨハネ賛歌』の結びの歌詞である「Sancte Ioannes(聖ヨハネよ)」の頭文字「S」と「I」を組み合わせて名付けられ、現在の7音階(ドレミファソラシ)が完成しました。
英語・ドイツ語・日本語はどう表す?国ごとの音名表記を徹底比較
音楽用語は世界共通と思われがちですが、音名の呼び方は国や言語圏によって大きく異なります。主要4言語の対応関係を整理しました。
【各国の音名表記比較】
・イタリア語:Do / Re / Mi / Fa / Sol / La / Si
・英語:C / D / E / F / G / A / B
・ドイツ語:C / D / E / F / G / A / H
・日本語:ハ / ニ / ホ / ヘ / ト / イ / ロ
ドイツ語では「シ」の音を「H(ハー)」、「シのフラット」を「B(ベー)」と呼ぶ独特のルールが存在します。中世の写本における文字の書き分けの差異が定着した名残です。
また、日本の伝統的な音楽表記である「ハニホヘトイロ」は、いろは歌の「いろはにほへと」を「ラ=イ」に対応させた体系です。基準音である「ラ(A音)」を「イ」としたため、「ド(C音)」が「ハ」に割り振られ、「ハ長調」「イ短調」といった調性の名前に今も息づいています。
音楽の授業では教えてくれない「音名」と「階名」の決定的な違い
音楽理論を理解する上で避けて通れないのが、「音名」と「階名」の違いです。この2つを混同しているケースは少なくありません。
・音名(絶対的な高さ):チューナーで測れる固定された周波数。CメジャーでもFメジャーでも「ピアノの鍵盤のその位置」を指す。
・階名(相対的な関係性):主音(トニック)を基準とした音の役割。曲の調性(キー)が変われば、基準となる「ド」の高さも移動する(移動ド唱法)。
日本では「ドレミ」を固定の音名としても階名としても両方使う習慣があるため、混乱が生じやすくなっています。ポピュラー音楽の現場やコード理論では「C・D・E」という英語表記で絶対音階を固定し、メロディの機能的な聴き取りには「ドレミ」を使うスタイルが合理的とされています。
日本にドレミが定着した歴史的経緯|雅楽から明治の学校教育へ
古来、日本には「宮・商・角・徴・羽(きゅう・しょう・かく・ち・う)」や「壱越・平調」といった独自の音名体系が存在していました。これが一変したのが明治時代の近代化政策です。
明治政府の文部省で音楽教育を主導した伊沢修二らは、西洋音楽を学校教育に導入するにあたり、唱歌の指導法として「ドレミファソラシド」の階名唱法を採用しました。発音しやすく、子どもの耳に馴染みやすいイタリア式音名はまたたく間に全国の小学校へと普及し、100年以上が経過した現在でも日本人の共通言語として定着しています。
【ドレミファソラシドは何語?】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:アメリカやイギリスでは「ドレミ」は通じないのですか?
A1:映画『サウンド・オブ・ミュージック』の「ドレミの歌(Do-Re-Mi)」で知られているため概念自体は通じますが、一般的な楽譜の読み書きやコードネームのやり取りでは「C・D・E・F・G・A・B」のアルファベット表記が圧倒的に使われます。
Q2:なぜ「ラ」の音が「A(イ)」で基準になっているのですか?
A2:古代ギリシャ音楽の時代、当時の楽器で出せる最も低い実用的な音が「ラ(A)」であったため、アルファベットの最初の文字が割り振られました。オーケストラのチューニングで今も「ラ(A=440Hz〜442Hz)」が使われるのはこの歴史的経緯によるものです。
Q3:ドレミの「ファ」と「シ」だけ半音なのはなぜですか?
A3:古代ギリシャから受け継がれたピタゴラス音律や自然倍音の物理的な響きの心地よさを基準に音階を並べた結果、「ミ-ファ」と「シ-ド」の間隔が半音になる全音階(ダイアトニックスケール)が西洋音楽の基礎として定着したためです。
誰もが口ずさむ「ドレミファソラシド」は、11世紀のイタリア修道士が讃美歌から編み出し、歌いやすさを求めて改良を重ねてきた人類の知恵の結晶です。ラテン語の祈りから生まれ、海を越えて明治の日本に根付いた歴史の厚みを知ると、耳にする音楽の景色も少し違って見えてきます。普段聴いている楽曲のコードや調性に触れる際は、ぜひこの壮大な音名のルーツを思い出してみてください。