学校の授業やテレビの雑学クイズで一度は耳にしたことがある「動物の名前が入る都道府県」の話題。47都道府県を見渡したとき、パッと頭に浮かぶのはどの地域でしょうか。「犬」や「猫」といった身近な動物から「龍」のような架空の生き物まで想像を巡らせてみると、意外と該当する県が少ないことに気がつきます。
日本列島の行政区分が現在の形に定着してから150年以上が経過しました。地名に刻まれた漢字には、古代の人々の暮らしや地形の特徴、さらには戦国武将の思惑まで、驚くほどディープな歴史ドラマが隠されています。本稿では、該当する都道府県の正確な答えと、各県名にまつわるリアルな由来を紐解きます。
【クイズの正解】動物の名前が入る都道府県は何個?実はたった「4つ」の真実

都道府県を対象にした地名クイズで頻出のテーマですが、「動物の名前がつく県は何個あるのか」という問いに対する正解は全部で4つです。
北から順に並べると、以下の通りになります。
- 群馬県(ぐんまけん):「馬(ウマ)」
- 鳥取県(とっとりけん):「鳥(トリ)」
- 熊本県(くまもとけん):「熊(クマ)」
- 鹿児島県(かごしまけん):「鹿(シカ)」
「47もあるのにたったの4県?」と驚く人も少なくありません。鳥類を含む広義の動物としてカウントしても、片手で数えられる数しか存在しない計算です。なお、「山梨県」の「梨」は植物、「愛媛県」の「媛」は女性の美称であり、動物ではありません。では、なぜこの4県にだけ動物の漢字が採用されたのか、それぞれの発祥を深掘りしてみましょう。
【群馬県】なぜ「馬」なのか?古代東国を支えた軍馬と牧場の歴史
群馬県の「馬」の由来は、古代日本における馬の放牧地としての役割に直結しています。
奈良時代以前、この地域は「上毛野国(かみつけのくに)」と呼ばれていました。当時の朝廷にとって、東国は軍馬や朝貢用の良馬を育てる重要な生産拠点でした。『続日本紀』などの古記録によると、711年に朝廷から「多胡郡(たごぐん)」が新設された際、周辺にあった「くるま(車)の郷」や「群馬(くるま)郡」の表記が定着していったとされています。
「くるま」が転じて「ぐんま」という音になり、数多くの名馬が群れをなして駆け巡っていた風景から「群馬」の文字が当てられました。現在でも赤城山麓をはじめとする豊かな大地には馬頭観音や牧場跡が多く残されており、古代の馬文化が県名にそのまま息づいています。
【鳥取県】狩猟民族「鳥取部」が起源?白鳥伝説と水辺の原風景
鳥取県の名称は、古事記や日本書紀に登場する「鳥取部(ととりべ)」という職業集団に由来します。
神話の時代、垂仁天皇の皇子である本牟智和気王(ほむちわけのみこ)は、言葉を発することができませんでした。ある日、大空を飛ぶ白鳥を見た皇子が言葉を発したため、天皇は家臣に命じてその白鳥を捕まえさせます。この功績によって鳥を捕獲する専門職「鳥取部」が設置され、水鳥が多く生息していた現在の鳥取平野周辺に人々が定住しました。
湿地帯や日本海沿岸の潟湖(ラグーン)が広がっていたこの地は、渡り鳥の宝庫でした。鳥を捕らえて朝廷に献上していた集団の居住地が「鳥取郷」となり、明治の廃藩置県を経て現在の県名へと引き継がれました。
【熊本県】実は「熊」はいなかった?加藤清正が変えた地名のミステリー
熊本県と聞くと、勇猛なヒグマやツキノワグマの生息地をイメージしがちですが、九州地方には古くからクマはほとんど生息していませんでした。ではなぜ「熊」の文字が使われているのでしょうか。
もともとこの地は「隈本(くまもと)」と表記されていました。「隈」とは川の曲がり角や奥まった土地、山と平地の境界などを意味する地形用語です。阿蘇山からの河川が入り組んだ地形を指して「隈本」と呼ばれていました。
この表記を劇的に変えたのが、安土桃山時代に隈本城へ入城した名将・加藤清正です。清正は城の大改修を行うにあたり、「隈」という文字に「陰」や「隅っこ」といった弱々しいニュアンスが含まれていることを嫌いました。武将としての威厳を示すため、強靭で勇猛な獣である「熊」の字を当て、1607年頃に「熊本」へと改名したと伝えられています。地形由来の言葉に武将の覇気が加わって誕生した、極めて戦略的な県名です。
【鹿児島県】火山島と野生の鹿?諸説入り乱れる南の玄関口のルーツ
鹿児島県の「鹿」についても、古代の風景や信仰にまつわる興味深い説が複数存在します。
もっとも有力視されているのは、錦江湾に浮かぶ桜島にかつて野生の鹿が多く生息していたという説です。海を渡る鹿の群れや、小鹿(かこ)が集まる島という意味から「鹿子島」あるいは「鹿児島」と呼ばれるようになったと考えられています。
もう一つの有力な説は、桜島の別名や地形に由来するものです。火山を意味する「カグ(神聖な火)」の島、あるいは崖や浸食地形を意味する「カコ」が変化して「カゴシマ」になったという言語学的アプローチもあります。南九州のシンボルである火山と、豊かな照葉樹林に暮らしていた野生動物の姿が重なり合い、現在の情緒ある表記として定着しました。
【発展編】全国の市町村にも広がる動物の漢字地名一覧と知られざるトリビア
47都道府県では4つに限られる動物漢字ですが、市区町村レベルまで対象を広げると、日本人の自然観を反映したユニークな地名が一気に増加します。
代表的な例を整理しました。
- 鳥類に由来する自治体:東京都羽村市(ハト・トリの羽)、京都府舞鶴市(ツル)、千葉県我孫子市(ヒコ/トリ関連伝承)、山形県鶴岡市
- 哺乳類に由来する自治体:宮崎県都城市(ミヤコノジョウ/牛馬伝承)、兵庫県養父市(ヤブ/かつての牛市)、東京都青梅市(ウマの伝承)、鹿児島県鹿屋市
- 水生生物・空想上の動物:埼玉県竜ヶ崎(龍/茨城県龍ケ崎市など)、東京都鮫洲(サメ)
これらの市町村名は、かつてその土地で盛んだった産業(養蚕・放牧・漁業)や、神話・土着信仰のシンボルとして生き物が大切に扱われていた証拠でもあります。
【動物の名前がつく都道府県】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:動物の漢字が入る県名に「犬」や「猫」がないのはなぜですか?
A1:日本の都道府県名は、明治時代の廃藩置県時に藩名や古代の令制国・郡名をもとに命名されました。犬や猫は人間にとって身近な愛玩・番犬動物でしたが、古代の国家運営において軍馬(馬)や献上品(鳥)、あるいは武威の象徴(熊)のような大規模な政治・経済・軍事拠点としての地名には採用されにくかったためと考えられます。
Q2:龍や虎などの漢字が使われている都道府県はありませんか?
A2:都道府県レベルでは存在しません。市町村レベルでは「龍ケ崎市(茨城県)」や「龍野(兵庫県たつの市の旧称)」などがありますが、47都道府県の枠組みでは「馬・鳥・熊・鹿」の4種類のみです。
Q3:都道府県の「県章(シンボルマーク)」に動物が描かれているものはありますか?
A3:自治体の鳥や獣(県鳥・県獣)を指定している都道府県は多いものの、公式の県章自体は漢字の図案化や地形をモチーフにしたものが主流です。ただし、シンボルキャラクター(マスコット)では熊本県の「くまモン」や群馬県の「ぐんまちゃん」のように、県名の動物をモチーフにしたデザインが全国的な人気を集めています。
「動物の名前が入る都道府県はいくつあるか」というシンプルな問いの先には、1000年以上の時を超えて受け継がれてきた日本の地理・軍事・文化の記憶が息づいています。
古代の軍用牧場だった群馬、水鳥を捕らえた狩猟民の鳥取、武将の気概で生まれ変わった熊本、そして雄大な自然と火山を見つめてきた鹿児島。何気なく呼んでいる地名の由来を知ることで、旅先で目にする風景や歴史遺産の見え方も一段と味わい深いものに変わるはずです。