日本を象徴する最高峰であり、国内外から多くの観光客が訪れる富士山。「富士山は静岡県と山梨県、一体どっちにあるのか?」という議論は、テレビ番組やSNSでも長年にわたって親しまれている定番のテーマです。両県の地元住民によるプライドをかけた景観自慢や名物論争を目にしたことがある方も多いのと考えられます。
しかし、法律や行政の公的な記録を紐解いていくと、驚くべき事実が浮かび上がってきます。実は、富士山の山頂部には明確な県境が存在せず、どちらの県にも属していない「境界未定地」となっているのです。加えて、山頂エリアは国のものではなく、ある神社の私有地として管理されています。長年語り継がれる県境論争の真相と、知られざる所有権の歴史を詳しく解説します。
【静岡vs山梨】富士山はどっちの県?長年続く論争と境界未定の真相

「富士山は静岡県と山梨県、どちらのものなのか」という問いに対する法的な結論は、「裾野は両県に属しているが、山頂部はどちらの県でもない」となります。国土地理院が発行する公式の地形図を見ても、富士山の八合目付近から頂上にかけては県境の線が意図的に引かれていません。
このように境界が定まっていない状態を、行政用語で「境界未定地域」と呼びます。明治時代の廃藩置県以降、静岡県(旧駿河国など)と山梨県(旧甲斐国)の間で山頂の所属を巡る議論が幾度となく交わされてきました。しかし、双方の主張が平行線をたどり、無理に境界線を引くことで不要な対立を生むのを避けるため、現在に至るまであえて境界を確定させない判断が採り続けられています。
そのため、地方自治法上の区分においても山頂部は所属未定地となっており、「静岡県富士山」「山梨県富士山」と単独で言い切ることは公的にはできません。
【山頂の所有者は誰?】実は私有地!富士山本宮浅間大社の境内地となった理由
「日本一高い山なのだから、山頂は国の土地(国有地)だろう」と思われがちですが、これも事実とは異なります。富士山の八合目以上(標高約3,700m以上)の広大なエリアは、静岡県富士宮市に本宮を置く「富士山本宮浅間大社」の私有地(境内地)です。
富士山頂が浅間大社の私有地となった歴史は、江戸時代初期にまで遡ります。1606年、天下統一を果たした徳川家康が、関ヶ原の戦いの勝利への謝意として山頂部を浅間大社に寄進したことが発端です。江戸幕府の庇護のもと、山頂は長らく霊山としての境内地として保護されていました。
明治維新を迎えると、新政府の社寺上地令によって一度は国有地へと編入されます。戦後、各地の寺社に旧境内地が返還される中で富士山頂も対象となりましたが、国との間で長期にわたる裁判へと発展しました。最終的には1974年の最高裁判所判決によって浅間大社の所有権が認められ、2004年に財務省から神社側へ正式に土地が譲渡(登記完了)されています。なお、剣ヶ峰の旧富士山測候所の敷地など一部を除き、山頂の大部分は現在も浅間大社の境内地「奥宮」として管理されています。
【郵便番号や住所はある?】富士山頂の特殊な住所表記と行政上の扱い
境界未定地であり私有地でもある富士山頂ですが、郵便や行政手続きにおいてはどのように扱われているのでしょうか。夏山シーズンになると山頂には期間限定の「富士山頂郵便局」が開設され、多くの登山者が記念の手紙を投函します。
富士山頂郵便局に割り振られている郵便番号は「〒418-0011」です。この番号は静岡県富士宮市の集配エリアに属しており、郵便物の配送管理上は便宜的に静岡県側の住所として扱われています。また、山頂の浅間大社奥宮宛の公的書類なども「静岡県富士宮市富士山頂上」といった表記が用いられることが一般的です。
ただし、これはあくまで郵便や通信の利便性を保つための便宜上の措置に過ぎず、山梨県との間で県境が確定したわけではありません。行政区画としては未確定のまま、生活・観光の実務を円滑に進めるための知恵が現場で運用されています。
【登山ルートと景観の対比】4大ルートの県名と「表富士・裏富士」の違い
富士山へのアプローチや見え方の違いも、両県の特徴を際立たせる要素です。富士山の登山道には主に4つの公式ルートが存在し、それぞれ異なる県からスタートします。
最も多くの登山者が利用する「吉田ルート」は山梨県(富士吉田市側)に位置し、山小屋が多くアクセスの良さが特徴です。一方、残る3つの「富士宮ルート」「須走ルート」「御殿場ルート」はすべて静岡県側に位置しています。富士宮ルートは最短距離で山頂を目指せる人気のルートであり、須走ルートや御殿場ルートは豊かな自然やダイナミックな砂走りが楽しめます。
また、古くから富士山を鑑賞する視点として「表富士」と「裏富士」という言葉が使われてきました。歴史的には、江戸や太平洋側(駿河湾方面)から望む静岡県側の景色を「表富士」、甲斐国側(山梨県側)から望む景色を「裏富士」と呼ぶ慣習がありました。しかし、山梨県側からは左右対称の美しい円錐形が際立って見えることや、富士五湖の水面に映る「逆さ富士」の絶景が広がることから、現在では「どちら側から見ても表である」という意識が定着しています。
【世界遺産登録と世論】両県が手を取り合った登録経緯とネットの反応
2013年6月、富士山は「富士山—信仰の対象と芸術の源泉」としてユネスコの世界文化遺産に登録されました。この登録プロセスこそが、静岡県と山梨県の長年のライバル関係を強固な協力関係へと変化させる大きな転換点となりました。
かつては自然遺産としての登録を目指したものの、ゴミ問題や環境負荷が課題となり一度は断念した歴史があります。両県は「富士山憲章」を共同で制定し、行政の枠組みを超えて環境美化や入山管理に尽力しました。近年では、オーバーツーリズム対策としての通行料導入や入山規制のルール作りなど、持続可能な観光地づくりに向けて両県が緊密に連携しています。
ネット上の反応を見ても、「どっちの県のものか」という論争はもはや深刻な対立ではなく、「静岡のお茶とセットで見る富士山が好き」「山梨の湖畔から眺める富士山が一番美しい」といった、お互いの魅力を称え合うエンタメ的なコミュニケーションとして楽しまれています。「富士山は日本の宝であり、みんなのもの」という共通認識が広く浸透しています。
【富士山はどこの県?】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:富士山の頂上で事件や事故が起きた場合、静岡県警と山梨県警のどちらが管轄するのですか?
A1:山頂部での救助や捜査については、静岡県警察と山梨県警察が協議を行い、登山道ルートや発生場所の状況に応じて緊密に連携して対応します。山岳遭難救助隊も両県それぞれが配置されており、通報元や初動の迅速性を考慮して出動体制が組まれます。
Q2:富士山頂の土地に固定資産税は課税されているのですか?
A2:山頂エリアは富士山本宮浅間大社の私有地ですが、地方自治法上の「境界未定地」であるため、課税主体となる市町村が存在しません。地方税法上、固定資産税を賦課する自治体を特定できないことから、山頂の土地に対して固定資産税は課税されていません。
Q3:富士山頂で生まれた子どもの出生届や戸籍の表記はどうなりますか?
A3:戸籍法上、出生届の提出先は父母の本籍地や届出人の所在地(居住地)となるため、一般的な自治体の窓口で問題なく手続きが可能です。出生地欄の記載については、便宜的に最寄りの市町村名などが記載される実務上の対応が取られます。
「富士山はどこの県にあるのか」という疑問を掘り下げると、裾野は静岡県と山梨県にまたがり、八合目以上の山頂部は境界未定地であり浅間大社の私有地という、ユニークかつ奥深い事実に行き着きます。
あえて県境を引かない選択は、歴史的な信仰の場を尊重し、不要な争いを避けてきた先人たちの知恵の結晶です。世界遺産としての価値を未来へと繋ぐため、静岡と山梨がそれぞれの個性を生かしながら手を取り合っている姿こそが、現代の富士山の真の魅力となっています。