従業員から育児休業の取得希望が出された際、人事・労務担当者が速やかに発行しなければならないのが「育児休業取扱通知書」です。育児・介護休業法に基づく法定書類であり、単なる事務的な連絡票ではなく、休業期間や休業中の待遇、復職後の労働条件などを明確にしてトラブルを未然に防ぐ決定的な役割を担っています。
相次ぐ育児・介護休業法の改正により、男性の育休取得促進や柔軟な働き方の推進が企業に強く求められるなか、通知書の作成手順や電子化のルール、さらには「休業の申し出を拒否できる法的な例外」についての正確な理解が不可欠です。現場で迷いがちな実務ポイントを徹底的に整理してお伝えします。
【義務化の背景】育児休業取扱通知書とは?交付期限と会社側の必須手続き

従業員から「育児休業申出書」が提出された場合、会社側は速やかに休業の取り扱い内容を確定し、書面等で通知しなければなりません。これが「育児休業取扱通知書」の交付義務です。
育児・介護休業法第6条および同法施行規則に基づき、事業主は休業申出を受理した後、速やかに(原則として申出を受けた日から概ね2週間以内)に通知書を交付する義務があります。この手続きを怠ったり放置したりすると、行政指導の対象となるだけでなく、労使間の深刻な信頼関係悪化を招く要因になります。
会社側の具体的な実務フローは以下の通りです。
まずは提出された申出書の休業開始予定日・終了予定日を確認し、対象要件(雇用形態や勤続年数など)を満たしているかを照合します。続いて通知書を作成し、休業期間中の社会保険料免除や育児休業給付金に関する案内と合わせて本人に交付する流れが基本です。
【書き方・記入例】厚生労働省様式をベースにした項目の記載ルール
育児休業取扱通知書を作成する際は、厚生労働省が公開しているモデル様式(テンプレート)を活用するのが最も確実でミスを防ぐ近道です。自社の就業規則や雇用環境に合わせて一部カスタマイズすることも可能ですが、省令で定められた必須事項を漏れなく盛り込む必要があります。
記載すべき必須項目と書き方の要点は次の通りです。
1. 育児休業申出に対する承認の可否
申し出を承認するか否かを明記します。承認する場合は、決定した「休業開始予定日」と「休業終了予定日」を正確に記載します。
2. 休業期間中の取り扱い・賃金の支払い有無
休業中に賃金を支払うかどうか(一般的な企業では無給扱い)を明記します。また、賞与の算定期間に休業期間がどのように影響するかも明確に定めておく必要があります。
3. 社会保険料・雇用保険の取り扱い
休業期間中の健康保険・厚生年金保険料の免除申請手続きを会社側が行う旨を明記します。免除要件を満たせば被保険者負担分・事業主負担分の双方が免除されるため、従業員の経済的不安を和らげる重要な情報となります。
4. 休業後の労働条件
職場復帰後の配置部署や勤務形態(短時間勤務制度の利用可否など)の予定を記載します。「原則として休業直前の部署・職務に復帰する」といった基本方針を記載しておくことで、復帰時のトラブルを回避できます。
【拒否できるケースの真相】労使協定の適用条件と無断拒否の法的リスク
人事担当者からよく寄せられる疑問のひとつに、「従業員からの育児休業の申し出を会社が断ることはできるのか」という点があります。法律上の
ただし、事業場において労働者の過半数代表者等と「労使協定」を締結している場合に限り、以下の対象者に該当する従業員からの申し出を例外的に拒むことが認められています。
・入社1年未満の労働者
・申出の日から1年以内(産後パパ育休は8週間以内)に雇用関係が終了することが明らかな労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
注意すべきは、単に「業務が多忙だから」「代替要員が確保できないから」といった現場の都合による拒否は一切認められないという点です。もし労使協定で定めた正当な事由により休業を拒む場合であっても、取扱通知書の「申出を拒む理由」欄に法的な根拠を明記して労働者に通知しなければなりません。
【産後パパ育休・期間延長】分割取得や延長時の変更通知書作成ポイント
近年の法改正によって定着した「出生時育児休業(産後パパ育休)」や育児休業の「分割取得」に関しても、個別の手続きルールが設定されています。
産後パパ育休は、子の出生後8週間以内に合計4週間まで、2回に分割して取得できる制度です。申出期限は原則として休業開始の2週間前まで(就業規則で一定の環境整備等を定めている場合は最大1か月前まで)となっており、通常の育児休業(原則1か月前まで)と期限が異なります。会社側は申出を受けるたびに、分割取得に応じた産後パパ育休用の取扱通知書を発行する必要があります。
また、保育所に入所できない等の理由で休業期間を延長する場合(1歳6か月まで、または最長2歳まで)や、本人の事情で休業終了日を変更する場合にも注意が必要です。当初交付した内容に変更が生じるため、会社は速やかに「育児休業期間変更通知書」を作成し、改定後の休業期間と復帰予定日を再交付しなければなりません。
【メール・電子交付の手順】書面交付原則の例外と労働者の同意要件
ペーパーレス化やリモートワークの普及に伴い、育児休業取扱通知書をPDF化して電子メールや社内労務システム上で交付する企業が増加しています。
法令上、育児休業取扱通知書は書面交付が原則ですが、労働者が希望した場合に限り、電子的な方法での交付が認められています。具体的には電子メールへのファイル添付、Web閲覧サービス(マイページ機能など)、チャットツール経由でのデータ送付が該当します。
電子交付を適法に進めるためには、以下の3つの条件を遵守する必要があります。
1. 労働者本人の事前承諾を得ていること(書面やメールで希望の意思を確認する)
2. 労働者が受信し、出力(印刷)して紙面として保存できる状態であること
3. 労働者に通知が確実に到達したことを確認できる仕組みであること
本人の同意なしに会社側の独断でメール送信のみで済ませた場合、適切な交付義務を果たしていないと判断されるリスクがあるため、社内の運用規定を必ず整備しておきましょう。
【育休復帰後の労働条件】給付金申請の流れから復帰前面談・通知書まで
育児休業取扱通知書を交付した後の実務として、ハローワークへの「育児休業給付金」の支給申請手続きがあります。給付金の受給資格確認や初回申請は原則として休業開始から2か月経過後に行いますが、会社側は賃金台帳や出勤簿を迅速に準備し、労働者の生活資金が滞らないよう配慮しなければなりません。
また、休業期間の満了が近づいた段階で行う「復職前面談」も極めて重要です。育休からの復帰時には、短時間勤務制度の利用、所定外労働の免除、残業制限などの希望を確認し、復職後の勤務時間や賃金条件を明確にした復帰時の労働条件通知書を取り交わすことが、労使双方の安心につながります。
特に法改正により、子の年齢に応じた柔軟な働き方を支援する措置(テレワークや短時間勤務など)の提示が企業に求められています。単に書類をやり取りするだけでなく、復職に向けた丁寧なコミュニケーション設計が欠かせません。
【育児休業取扱通知書】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:育児休業取扱通知書の交付を忘れてしまった場合、どのようなペナルティがありますか?
A1:直ちに罰金が科されるわけではありませんが、育児・介護休業法違反として労働局から是正勧告や指導を受ける対象になります。悪質なケースや指導に従わない場合は企業名が公表されるリスクもあるため、申出書を受理したら速やかに交付手続きを進めてください。
Q2:育児休業の申出書と取扱通知書を1枚の書類にまとめて運用しても問題ありませんか?
A2:実務上、上段を「従業員からの申出欄」、下段を「会社からの通知欄」とした一体型の様式を採用することは認められています。ただし、通知欄に法定の記載事項が漏れなく含まれており、会社印等の押印または公式な発信元が明記されている必要があります。
Q3:有期雇用労働者(パート・契約社員)から育休の申し出があった場合も通知書は必要ですか?
A3:有期雇用労働者であっても要件(子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでないこと等)を満たしていれば取得可能であり、取扱通知書の交付義務が発生します。適用対象外として拒否する場合でも、その理由を記載した通知書の交付が必要です。
育児休業取扱通知書は、育児休業を取得する従業員と受け入れる企業双方が、休業期間や復帰後の労働環境について合意を形成するための極めて重要な法定文書です。
最新の法改正によって制度が柔軟化したからこそ、通知期限の遵守、正確な記載内容、電子化に伴う同意確認など、人事労務部門における正確な実務対応の価値が高まっています。厚労省の標準様式を適切に活用しながら、従業員が安心して休業に入り、円滑に職場復帰できる体制を整えていきましょう。