高校古典の教科書や定期テストで必ずと言っていいほど出題される、清少納言の『枕草子』「宮に初めて参りたるころ」。才気煥発なイメージの強い清少納言が、宮仕えの初日に極度の緊張と恥ずかしさで縮こまる姿を描いたこの章段は、文法学習の宝庫としても知られています。
しかし、いざ試験勉強を始めると「参りたる」の細かな品詞分解や、複雑な敬意の方向、助動詞の意味の見分け方でつまずく受験生が後を絶ちません。今回は、テストで確実に高得点を狙うための文法詳細から、中宮定子との鮮烈な出会いによって生じる清少納言の心情変化まで、押さえるべき要点を一気に紐解きます。
【冒頭〜核心部】『宮に初めて参りたるころ』品詞分解と全文現代語訳

まずは、定期テストで最も配点が高い重要箇所の品詞分解と現代語訳を押さえます。単語の切れ目と活用形、文法的意味を1語ずつ確認していきましょう。
【冒頭部分の品詞分解】
宮(名詞)/に(格助詞)/初めて(副詞)/参り(動詞・ラ行四段活用・連用形)/たる(助動詞・存続・連体形)/ころ(名詞)/、/恥づかしき(形容詞・シク活用・連体形)/こと(名詞)/の(格助詞)/心苦しき(形容詞・シク活用・連体形)/こと(名詞)/、/啓し(動詞・サ行四段活用・連用形)/つくす(動詞・サ行四段活用・終止形)/べく(助動詞・可能・連用形)/も(係助詞)/あら(動詞・ラ行変格活用・未然形)/ず(助動詞・打消・連用形)/。
特に冒頭の「参りたる」の品詞分解は頻出ポイントです。ラ行四段動詞「参る」の連用形に、完了・存続の助動詞「たり」の連体形「たる」が接続しています。ここは「宮仕えに上がっていた(状態)」を表すため、意味は「存続」と判断するのが適切です。
【全文現代語訳のダイジェスト】
中宮(定子)様の御殿に初めて出仕したころ、気恥ずかしいことや心苦しい(気がかりで居たたまれない)ことは、中宮様にとても申し上げ尽くすことができそうもありません。
夜、お前に上がって、絵などをご覧になるのを拝見していますが、私自身はただもう恥ずかしくて縮こまっており、涙さえこぼれそうになってしまいます。
中宮様は「これをごらん」と絵を差し出されますが、灯火が近くて恐縮し、手さえ差し出すことができません。「これが清少納言か」と御覧になっているのかと思うと、汗が背中を流れるばかりでした。
テスト頻出!「助動詞の識別」と「係り結びの法則」徹底整理
定期テストや共通テスト形式の設問で平均点を左右するのが、文末や文中に出てくる助動詞の識別と、係り結びの法則です。
本作には過去の助動詞「き」「けり」が混在しています。「き」は語り手自身の直接体験の過去を表し、「けり」は過去の事象を回想するニュアンスを持ちます。「〜に涙も落ちぬべし」の「ぬべし」は、完了の助動詞「ぬ」の終止形+推量・当然の助動詞「べし」の連体形で、「きっと〜してしまいそうだ」という強意・推量の意味を形成します。
さらに見落とせないのが係り結びの法則です。「いと恥づかしく、涙も落ちぬべし」と心情を吐露する場面の前後では、強調の係助詞「ぞ」や疑問・反語の「や」が使われます。「ぞ」の後ろに来る活用語は必ず連体形で結ばれ、「こそ」の後ろは已然形で結ばれます。文末が終止形になっていない箇所を見つけたら、直前に「ぞ・なむ・や・か・こそ」が隠れていないか必ず遡って確認してください。
敬語一覧と敬意の方向|誰から誰への敬意かを完全図解
古典文法で多くの生徒が失点するのが「敬意の方向(誰が、誰に対して敬意を払っているか)」です。『枕草子』は清少納言の回想録であるため、地の文における敬語の主体(敬意を発している人物)はすべて「語り手(清少納言)」になります。
本文中に登場する重要敬語の役割と敬意の客体(相手)は次の通りです。
1. 参る(謙譲語・本動詞)
意味:参上する、宮仕えに出る
敬意の方向:語り手(清少納言) ➜ 中宮定子(および定子のいる宮殿)
2. 啓す(謙譲語・本動詞)
意味:中宮・皇太子に申し上げる
※「言ふ」の最高謙譲語。対象が皇后・中宮・皇太子のときのみ用いられる点が入試頻出です。
敬意の方向:語り手(清少納言) ➜ 中宮定子
3. 御覧ず(尊敬語・本動詞)
意味:ご覧になる
敬意の方向:語り手(清少納言) ➜ 中宮定子
4. 給ふ(尊敬語・補助動詞)
意味:〜なさる、お〜になる
「仰せらる」「取らせ給ふ」などの複合表現において、中宮定子の動作を高めるために用いられます。
敬意の方向:語り手(清少納言) ➜ 中宮定子
なぜ清少納言は萎縮したのか?初登庁の背景と経緯・心情変化
自信家で機知に富んだ随筆を残した清少納言が、なぜこれほどまでに狼狽し、恥じらっていたのか。その背景には、当時の宮廷サロンの華やかさと彼女自身の立場がありました。
清少納言が一条天皇の中宮・定子のもとに出仕したのは、正暦4(993)年の冬ごろとされています。当時、清少納言は20代後半から30歳前後。当時の女性としては決して若くはなく、離婚を経験した後の遅咲きの宮仕えでした。一方の中宮定子は若干17歳前後でありながら、圧倒的な美貌と卓越した教養を兼ね備え、彼女を取り巻く女房たちも貴族社会のエリートばかりでした。
田舎貴族(受領階級)の出身である清少納言にとって、煌びやかな宮廷の明かりの下に晒されることは、自らの教養や容姿を審査されるような恐怖を伴うものだったのです。これが「恥づかしきことの心苦しきこと」の正体です。
しかし、物語が進むにつれて清少納言の心情は「居心地の悪さや恐怖」から「定子への無条件の崇敬と親愛」へと劇的に変化します。定子が緊張する清少納言を優しく気遣い、絵を見せながら親身に語りかけたことで、清少納言は定子の気品と優しさに完全に魅了されます。この初登庁の挫折と救済の体験こそが、のちに彼女が定子サロンの筆頭女房として筆を振るう原動力となりました。
試験でそのまま語句現代語訳として問われる重要単語を整理しました。現代語の感覚で解釈すると誤訳しやすい古語が並びます。
・はしたなし(形容詞・ク活用)
現代語訳:中途半端だ、居心地が悪い、決まりが悪い
解説:「端(はし)」がない、つまり居場所がないほど居心地が悪く、恥ずかしい状態を指します。
・心苦し(形容詞・シク活用)
現代語訳:気がかりだ、つらい、居たたまれない
解説:他者に対して「気の毒だ」という意味でも使われますが、本作では自分自身の心が苦しく落ち着かない状態を表します。
・あてなり(形容動詞・ナリ活用)
現代語訳:高貴だ、上品だ、優雅だ
解説:中宮定子の振る舞いや佇まいを象徴する、平安貴族文学における最重要美意識の一つです。
・御前(名詞)
現代語訳:お前、貴人の御前(みまえ)
解説:身分の高い人物のすぐ目の前、または貴人そのものを指す尊称です。
【定期テスト予想問題】現役高校生が直前に対策すべき実践演習
実際の定期テストを想定した、差がつく予想問題と解答のポイントです。机に向かって自力で解けるか確認してみましょう。
【問1:文法・助動詞の識別】
傍線部「涙も落ちぬべし」の「ぬ」の品詞名と文法的意味を答えよ。
正解:助動詞「ぬ」・完了(または強意)
解説:推量の助動詞「べし」の直前にある「ぬ」は、打消ではなく完了(強意)です。「きっと〜してしまうに違いない」と訳出します。
【問2:敬語の識別と方向】
傍線部「啓しつくすべくもあらず」の「啓す」の敬語の種類と、誰に対する敬意か答えよ。
正解:謙譲語/中宮定子に対する敬意
解説:「言ふ」の最高謙譲語であり、皇后・中宮・皇太子などの三宮に申し上げる際に使われます。
【問3:内容把握・心情記述】
「手を出づることもゆかしからず」とあるが、なぜ清少納言は手を出そうとしなかったのか。その理由を40字以内で説明せよ。
解答例:灯火の光が近く自分の手や姿が見られるのが極めて恥ずかしく、恐縮したため。(38字)
【宮に初めて参りたるころ 品詞分解】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「参りたる」の「たる」は完了と存続のどちらで解釈すべきですか?
A1:学校の教科書や問題集では「存続」と解釈するのが一般的です。「参上した状態が続いている(宮仕えを始めて間もない)」という継続的な状況を表しているためです。ただし文脈によっては完了とする注釈書もあるため、学校の担当教員の指導方針を事前に確認しておくと安全です。
Q2:清少納言が恥ずかしがっている具体的な原因は何ですか?
A2:灯火の明かりによって、自身の化粧や衣装、手の先に至るまで中宮定子や先輩女房たちにつぶさに観察されていると感じたためです。地方官の娘であるという身分の引け目と、高貴な定子の美しさに対する畏怖が混ざり合っています。
Q3:定期テストで最も記述問題として狙われやすい要点はどこですか?
A3:「啓す」の敬語の種類と対象、そして「涙も落ちぬべし」の心理状態です。なぜ涙が落ちそうになったのかという理由を「あまりの恥ずかしさと緊張のため」と端的にまとめられるように準備しておきましょう。
『枕草子』「宮に初めて参りたるころ」は、細かな文法規則の暗記だけで乗り切ろうとすると難解に思えます。しかし、敬語の向きを追うことで「誰が誰を見つめ、どれほど圧倒されているのか」という宮廷内の力関係や空気感が鮮明に立ち上がってきます。
「参りたる」の助動詞識別や「啓す」の対象といった文法上の急所を正確に押さえた上で、人間味あふれる清少納言のリアルな緊張感に寄り添ってみてください。文法と情景が結びついたとき、定期テストや入試問題の古文は確実に得点源へと変わります。