ホーム 芸能ニュース・ゴシップ 枕草子「二月つごもりごろに」現代語訳と解説!伊周との機知を読み解く

枕草子「二月つごもりごろに」現代語訳と解説!伊周との機知を読み解く

星野 楓 星野 楓 • 更新: • 公開: • 読了約 13 分
目次

平安中期の宮廷サロンで繰り広げられた、知性とセンスが火花を散らす文学的駆け引き——。高校の古文教科書や定期テストでも屈指の頻出章段として知られる『枕草子』の「二月つごもりごろに」は、作者・清少納言の機転と教養が鮮やかに描かれた名場面です。

冷たい雪が舞い散る鬱陶しい日の暮れ方、才気あふれる若き貴公子・藤原伊周(ふじわらのこれちか)から突然投げかけられた和歌の「上の句」。一歩間違えれば中宮定子後宮の面目を失いかねないプレッシャーの中、清少納言はいかにしてその挑戦を鮮やかに打ち返したのでしょうか。本稿では、原文の徹底的な現代語訳から品詞分解、古典文法の核心、定期テストで狙われる敬語の識別まで、徹底的に読み解きます。

【あらすじと相関図】清少納言と藤原伊周が繰り広げた「和歌の即興バトル」

二月つごもりごろに現代語訳

物語の舞台は、2月下旬(旧暦の冬の終わり、春浅い時期)の薄暗く雪がちらつく陰鬱な日。中宮定子の兄であり、当時飛ぶ鳥を落とす勢いにあった若きエリート貴族・内大臣の藤原伊周から、清少納言のもとへ一通の手紙が届けられます。

開いてみると、そこには手紙の本文はなく、ただ和歌の上の句である「数ならぬ伏屋の折戸さしこめて」(物の数にも入らない粗末な小屋の折戸を閉ざして)とだけ記されていました。伊周の狙いは明確でした。「定子の女房たちにこれを投げかけ、うまく返せないところをからかってやろう」という知的な罠です。

この歌の元ネタである『古今和歌集』の原歌通りに下の句を続けると、季節の情景に合わず、平凡すぎて女房としての教養を疑われます。中宮定子からも「どう返しますか?」と促された清少納言は、炭の切れ端を手に取り、その場で機転を利かせた下の句を書き添えて差し出しました。

その見事な返しを見た伊周は「女房をやり込めようと思ったのに、見事に返されてしまった、悔しい!」と地団駄を踏み、定子も清少納言の瞬発力を絶賛します。宮廷サロンにおける清少納言の確固たる評価を決定づけた、知性あふれるエピソードです。

【全文現代語訳】枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳対訳

テスト対策や深い読解に直結するよう、原文と現代語訳を段落ごとに対比して確認します。

【原文 第1段】
二月つごもりごろに、風いたう吹きて、空いみじう黒きに、雪すこしうち散りたるほど、黒戸に主殿司来て、「案内申す」と言へば、出でたるに、「これ、内大臣殿の奉らせ給ふ」とて、文あるを見れば、様異なることなき紙に、「数ならぬ伏屋の折戸さしこめて」とあるは、いづちの句にかと思ふに、「冬こそ人のとはれざりけれ」と結ぶべきを、「言ひにくき折に、何とか言ふべかるべき」とて、宮の御前に参りたれば、御前に人あまたさぶらひて、御物語などあり。

【現代語訳 第1段】
二月の下旬のころ、風がひどく吹いて、空がたいそう暗く、雪が少し舞い散っているころに、黒戸(部屋の仕切り)の所に主殿司(宮中の雑務係)が来て、「取次ぎを頼みます」と言うので、出て行ったところ、「これを内大臣(藤原伊周)殿が差し上げなさる」と言って手紙があるのを見ると、特別なところもない普通の紙に、「数ならぬ伏屋の折戸さしこめて(物の数にも入らない粗末な小屋の折戸を閉ざして)」とあるのは、どこの句(続き)だろうかと思うと、(古今集の原歌なら)「冬こそ人のとはれざりけれ(冬こそ人は訪ねてこないものだったよ)」と結ぶはずの歌だが、「(今は春の二月なのだから)言い出しにくい折柄に、どう答えるのがよいだろうか」と思って、中宮定子様のお前に参上したところ、御前には大勢の女房がお仕えしていて、お話などをなさっている。

【原文 第2段】
「これ、見給へ。いかが言ふべき」とて見せ給へば、「ただ、まことや冬は恋しき、と書きて参らせよ」とのたまはするに、炭櫃の炭消えたるを取りて、ただ一こと書き添へて取らす。主殿司、持て往きぬ。

【現代語訳 第2段】
(定子様が)「これをごらんなさい。どのように返歌をするのがよいだろうか」とお見せになるので、(私が)「ただ、『まことや冬は恋しき(本当に冬が恋しいことよ)』と書いて差し上げなさいませ」と申し上げると、(定子様は)火鉢の消えかかった炭をお取りになって、ただその一言を(紙の余白に)書き添えて(使者に)お渡しになる。主殿司は手紙を持って退出していった。

【原文 第3段】
のちに聞けば、殿、「これ、ただ書きて、女房に見せて言ひ落とさむとこそ思ひつれ。無念にも書きつけつるかな」とて、のたまひけるとか。宮も「言ひにくき折に、よくぞ言ひつる」とて、めでさせ給ふ。

【現代語訳 第3段】
あとで聞いたところによると、内大臣殿は「この歌は、ただ(上の句だけを)書いて女房に見せ、返答に詰まらせてやり込めようと思っていたのに。悔しいことにも(見事な下の句を)書き添えてしまったものだなあ」とおっしゃったということだ。定子様も「(季節外れで)詠みにくい折に、実によく詠んだことだ」とおっしゃって、お褒めになった。

【背景と文学的教養】藤原伊周の仕掛けた罠と『古今和歌集』の本歌取り

このやり取りがなぜ絶賛されたのかを理解するには、当時の貴族社会に不可欠だった教養(古典和歌と漢詩の知識)を把握する必要があります。

伊周が手紙に記した「数ならぬ伏屋の折戸さしこめて」は、『古今和歌集』(巻六・冬歌)に収められている次の歌を踏まえています。

【原歌】
「数ならぬ 伏屋の折戸 さしこめて 冬こそ人の とはれざりけれ」
(取るに足りない粗末な小屋の折戸を閉ざして引きこもっていると、冬は誰も訪ねてこないものだなあ)

この原歌をそのまま返してしまえば、「単に歌を知っているだけ」の芸のない女房と見なされます。しかも、この日は陰暦二月の末であり、季節区分としてはすでに「春」です。雪が降っているとはいえ、冬歌の結びをそのまま使うのは風流に反します。

そこで清少納言は、「まことや冬は恋しき」(本当に冬が恋しいことですよ)というフレーズを提案しました。暗く雪が降る悪天候を逆手に取り、「こんなうら寂しい天気の日は、誰にも訪ねてもらえないあの孤独な『冬』こそが、かえって懐かしく思い出されますね」と、原歌のニュアンスをひねって見せたのです。

白居易の『白氏文集』をはじめとする漢詩文の知識も豊富だった伊周の意地悪なテストを、機転の利いた「ひと言」で鮮やかに交わしたことこそが、この章段の醍醐味です。

【重要単語&品詞分解】テスト頻出の助動詞と文法ポイントを徹底整理

定期テストや入試で必ず問われる重要単語と、間違いやすい品詞分解をピックアップしました。

■ テスト頻出の重要古語

  • つごもり(晦日):月の末日、下旬のころ。「ついたち(朔日)」の対義語。
  • いたう(甚う):形容詞「いたし」の連用形「いたく」のウ音便。「ひどく、たいそう」。下に打消を伴うと「それほど〜ない」となる頻出語。
  • 案内申す(あないもうす):取り次ぎを頼む、来意を告げる。
  • さぶらふ(候ふ):お仕えする、控える(謙譲語)。
  • 無念なり(むねんなり):悔しい、残念だ。現代語の「無念」よりも「悔しい」のニュアンスが強い。
  • めでさせ給ふ(愛でさせたまふ):お褒めになる、賞賛なさる。

■ 注目すべき品詞分解ポイント

①「言ひにくき折に、何とか言ふべかるべき」
・べかる:推量の助動詞「べし」の連体形「べき」のウ音便(撥音便無表記)「べかん」の元の形。
・べき:推量・当然の助動詞「べし」の連体形。
※「べし」が重なることで、「どのように言うのがふさわしいのだろうか」という強い思案・ためらいを表します。

②「言ひ落とさむとこそ思ひつれ」
・む:意志の助動詞「む」の終止形(やり込めてやろう)。
・こそ:強調の係助詞。
・つれ:完了の助動詞「つ」の已然形(係り結び)。

【敬語の識別と読解】主語判定の鍵を握る「奉らせ給ふ」「めでさせ給ふ」

古文読解において最大の難所となるのが「誰が誰に対して敬意を払っているか」という敬語の識別です。「二月つごもりごろに」には最高敬語(二重敬語)が頻出し、主語判定の設問として狙われます。

敬語表現 種類と敬意の方向 現代語訳・読解の要点
奉らせ給ふ
(たてまつらせたまふ)
「奉る(謙譲)」+「給ふ(尊敬)」
⇒ 伊周から中宮定子(または女房)への敬意と、語り手から伊周への敬意。
「差し上げなさる」
主殿司が内大臣(伊周)の動作として述べている箇所。
御覧ぜさせ給ふ
(ごらんぜさせたまふ)
「御覧ず(尊敬)」+「させ給ふ(最高敬語)」
⇒ 語り手(清少納言)から中宮定子への最高敬意。
「ご覧に入れなさる」
定子が高貴な身分であることを示す表現。
めでさせ給ふ
(めでさせたまふ)
「愛づ」+「させ給ふ(最高敬語)」
⇒ 語り手から中宮定子への敬意。
「お褒めになる」
主語は中宮定子。清少納言の機転を讃えた動作。

【定期テスト対策・予想問題】古典読解で差がつく頻出設問と解答のコツ

定期テストや大学入学共通テスト形式の設問で実際に出題されやすいパターンをまとめました。

【問1】「数ならぬ伏屋の折戸さしこめて」に対し、なぜ原歌通りの下の句を返さなかったのか。その理由を説明せよ。
【解答のポイント】
原歌の結び(冬こそ人のとはれざりけれ)は季節が真冬を前提としており、当時は陰暦二月下旬(春)であったため季節外れになること。また、伊周の「女房をやり込めよう」という意図を見抜き、そのまま返すのではなく当意即妙な工夫が必要だったため。

【問2】「無念にも書きつけつるかな」と言った内大臣(伊周)の心情として最も適切なものは何か。
【解答のポイント】
上の句だけを贈って女房たちを困らせ、言い負かそう(恥をかかせよう)と企んでいたのに、清少納言が機知に富んだ下の句をあっさりと書き添えて返してきたことに対する「悔しさ」と「予想外の敗北感」。

【問3】本文中における中宮定子と清少納言の関係性はどのように描かれているか。
【解答のポイント】
主従関係でありながら、伊周からの急な問いかけに対して「どう返そうか」と相談し合い、清少納言の提案した機転を信じて自ら炭で書き付けるなど、知的な連帯感と深い信頼関係で結ばれている様子。

【二月つごもりごろに 現代語訳】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:「つごもり」とは具体的に何月何日のことですか?
A1:陰暦(旧暦)における月末の日、または月末近くの数日間を指します。「月隠り(つきごもり)」が語源です。本文の「二月つごもりごろ」は、旧暦2月下旬であり、季節としては「仲春(春の半ば)」にあたります。まだ厳しい寒さや雪が残る時期です。

Q2:なぜ清少納言は筆ではなく「炭」で文字を書いたのですか?
A2:中宮定子のそばにあった「炭櫃(火鉢)」の火が消えかかった炭を咄嗟に取って書いたとされています。急な手紙に対して墨を擦る時間さえ惜しみ、即興のスピード感を重視したこと、また形式張らない機知を演出したとする見方が一般的です。

Q3:藤原伊周と中宮定子、清少納言の身分関係はどうなっていますか?
A3:藤原伊周は関白・藤原道隆の嫡男で内大臣。中宮定子は伊周の実妹であり、一条天皇の正妻(中宮)です。清少納言はその定子に仕える女房(側近)です。伊周にとって定子のサロンは親しい身内の場であり、同時に女房たちの教養を試す場でもありました。

『枕草子』の「二月つごもりごろに」は、単なる貴族たちの言葉遊びの記録ではありません。季節の移ろい、古典への深いリスペクト、そして予期せぬプレッシャーを優雅にかわす瞬発力——平安宮廷サロンが誇った洗練された知の結晶がここに凝縮されています。

定期テストや古文の読解演習に取り組む際は、単なる文法暗記にとどまらず、登場人物たちの緊張感や清少納言が放った「切り返しの鮮やかさ」というドラマを感じながら読み進めてみてください。古典の世界がより立体的で魅力的なものとして見えてくるはずです。

同じカテゴリの記事

星野 楓
コンテンツディレクター 星野 楓
プロフィールを見る →

経歴・年齢などの人物データは公式プロフィールと過去の公表資料を突き合わせて記載し、出典を本文で明示します。

おすすめの関連記事