高校の古文の定期テストや大学入試対策で、必ずと言っていいほど出題されるのが『枕草子』第八十七段「二月つごもりごろに」です。平安中期のきらびやかな宮廷サロンを舞台に、当代きっての才人・藤原公任から届いた風流な問いかけに対し、女房・清少納言がいかに機知に富んだ返歌を返したかを描いた名場面として知られています。
しかし、いざテスト勉強を始めると「助動詞の識別がややこしい」「敬語の本動詞と補助動詞の区別がつかない」「主語が省略されていて誰の動作かわからない」と頭を抱える受験生が後を絶ちません。そこで本稿では、プロの編集視点から「二月つごもりごろに」の品詞分解、現代語訳、助動詞の識別、敬語の敬意の方向まで、得点に直結するエッセンスを一挙に解き明かします。
【あらすじと背景】中宮定子のサロンで起きた清少納言と藤原公任の知的バトル
『枕草子』第八十七段に位置する「二月つごもりごろに」は、中宮定子に仕えていた清少納言の機転と教養が鮮やかに描かれた章段です。まずは物語のあらすじと、平安貴族社会の人間関係を確認しましょう。
時は二月の下旬、冷たい風が強く吹き荒れ、雪がわずかに舞い散る日のことでした。宮中の黒戸(宿直所)に主殿司(主殿寮の下級役人)がやって来て、一通の手紙を差し出します。手紙の主は、当時の一流歌人であり貴公子として名を馳せていた藤原公任(公任の宰相)でした。
手紙を開いてみると、そこには長歌や通常の和歌ではなく、ただ一言「少し春ある心地こそすれ」(わずかに春の気配が感じられる心地がすることだよ)という「下の句」だけが記されていました。つまり公任は、「この下の句にふさわしい見事な上の句を即座につけて返してみよ」という、極めてハードルの高い知的挑戦を仕掛けてきたのです。
宮中の女房たちは「誰が返事をするのがふさわしいか」と決めかね、主君である中宮定子にお伺いを立てます。定子も「本当に素晴らしい付け句の誘いね。どう付けるのがよいかしら」と面白がる一方、清少納言にはプレッシャーがのしかかりました。使者の主殿司は「早く、早く」と催促し、定子からも「機を逃しては風流が台無しになる」と急かされます。その極限状態のなかで、清少納言が絞り出した上の句が、平安文学史に残る名返歌となったのです。
【全句徹底】「二月つごもりごろに」の品詞分解と現代語訳一覧
定期テストで最も配点が高い本文前半から山場にかけての重要フレーズを品詞分解し、逐語的な現代語訳を照らし合わせていきます。
【冒頭部分】
「二月つごもりごろに、風いたう吹きて、雪いささか散るに、」
・二月(名詞)
・つごもり(名詞:月末、月の下旬)
・ごろ(接尾語)
・に(格助詞)
・風(名詞)
・いたう(副詞:ク活用形容詞「いたし」の連用形「いたく」のウ音便。「たいそう」「激しく」)
・吹き(カ行四段動詞「ふく」の連用形)
・て(接続助詞)
・雪(名詞)
・いささか(副詞:「わずかに」「ほんの少し」)
・散る(ラ行四段動詞「ちる」の連体形)
・に(接続助詞:「〜ところ」)
【現代語訳】二月の下旬のころに、風がひどく吹いて、雪が少し舞い散っているときに、
【公任の手紙を見る場面】
「見れば、ただ、「少し春ある心地こそすれ」とあり。」
・見れ(マ行上一段動詞「みる」の已然形)
・ば(接続助詞:確定条件「〜すると」)
・ただ(副詞:「ただもう」「ただただ」)
・少し(副詞)
・春(名詞)
・ある(ラ変動詞「あり」の連体形)
・心地(名詞)
・こそ(係助詞:強意。結びを已然形にする)
・すれ(サ変動詞「す」の已然形:「こそ」の結び)
・と(格助詞:引用)
・あり(ラ変動詞「あり」の終止形)
【現代語訳】見てみると、ただ「少し春の気配がする心地がすることだよ」とだけ書いてある。
【清少納言の返句部分】
「空寒み花に紛へて散る雪に」
・空(名詞)
・寒み(ク活用形容詞「さむし」の語幹+接尾語「み」:「〜が寒いので」の原因・理由を表す)
・花(名詞)
・に(格助詞)
・紛へ(ハ行下二段動詞「まがふ」の連用形:「見まがう」「紛れる」)
・て(接続助詞)
・散る(ラ行四段動詞「ちる」の連体形)
・雪(名詞)
・に(格助詞)
【現代語訳】空が寒いために(春の桜の)花と見紛うように散る雪を見ていると、(少し春ある心地こそすれ=わずかに春の訪れを感じる心地がすることだ)
【テスト頻出】「る・らる」「なり」「き」助動詞の識別と活用形完全攻略
文法問題で失点しやすいのが、助動詞の識別です。本段落には、高校古文の重要助動詞が凝縮されています。
特に注視すべきなのが「早く」と責めらるの「らる」です。この「らる」は、下二段動詞「責む」の未然形「責め」に接続しています。助動詞「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がありますが、ここでは主殿司や周囲の女房たちから「早く詠みなさい」と催促されている状況であるため、受身(〜される)の用法です。「責めらる」は「(周囲から)催促される」と訳出します。
続いて、「公任の宰相の御文なり」の「なり」です。「なり」には伝聞・推定と断定・存在の2種類がありますが、直前が「御文(名詞=体言)」であるため、体言接続の断定の助動詞「なり」の終止形です。「公任の宰相のお手紙である」と訳します。
加えて、過去の助動詞「き」の活用も見逃せません。「〜せしこと」「〜見し人」のように連体形「し」や已然形「しか」の形で頻出します。誰の経験・直接体験であるかを踏まえて、過去の助動詞を見落とさないように整理しておきましょう。
【敬語と主語判別】本動詞・補助動詞の見分け方と省略された主語の特定法
『枕草子』読解の最大の難所は、敬語を手がかりにした主語の判別です。平安時代の文章は主語が頻繁に省略されますが、敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)と、それが「本動詞」なのか「補助動詞」なのかを見分ければ、誰から誰への動作かが一目瞭然になります。
代表的な敬語表現の整理表を確認してみましょう。
| 本文の表現 | 動詞の種類 | 敬語の種類 | 動作の主体(主語) |
|---|---|---|---|
| 御前に参らせて | 本動詞(参る)+使役(す) | 謙譲語(定子への敬意) | 女房たち |
| 宮はおはします | 本動詞(おはす) | 尊敬語(定子への敬意) | 中宮定子 |
| 問はせたまふ | 助動詞(す)+補助動詞(たまふ) | 最高敬語(二重尊敬) | 中宮定子 |
| 書きて奉れ | 補助動詞(奉る) | 謙譲語(公任への敬意) | 中宮定子(発話者) |
| 聞こしめせば | 本動詞(聞こしめす) | 尊敬語(定子への敬意) | 中宮定子 |
例えば、「問はせたまふ」は使役・尊敬の助動詞「す」の連用形「せ」に、尊敬の補助動詞「たまふ」が重なった最高敬語(二重尊敬)です。この動作を行える身分の人物は作中では中宮定子しかいません。したがって主語が書かれていなくても「定子様がお尋ねになる」と即座に特定できます。
また、「書きて奉れ」の「奉る(たてまつる)」は動詞「書き」の下に付いているため謙譲の補助動詞です。この言葉を発しているのは定子ですが、手紙を受け取る相手である公任に対する敬意として「差し上げなさい」という意味で使われています。
【和歌の仕掛け】『白氏文集』を踏まえた清少納言の機知と即答の美学
なぜ清少納言の詠んだ上の句が、これほどまでに称賛されたのでしょうか。そこには、平安貴族の教養の頂点であった唐代の詩人・白居易の詩集『白氏文集』の存在がありました。
公任が投げかけた「少し春ある心地こそすれ」という下の句は、実は『白氏文集』の「香炉峰下、新に山居を卜し、草堂初めて成り、偶々東壁に題す」に収められた詩句、「雪裏の花と疑ひて散る雪に、春の心あり」という詩情を下敷きにしています。
公任は「自分が白楽天の詩を踏まえて作句していることに気づき、見事に対をなす上の句を付けられるか」と試したのです。もし平凡な冬景色の句をつければ興ざめになり、知識がなければ返歌すらできません。
清少納言は、公任の意図を瞬時に察知しました。そして即座に「空寒み花に紛へて散る雪に」と返し、「空が寒いので梅や桜の花と見紛うように散る雪を見ていると、(少し春の気配が感じられますね)」と完璧に『白氏文集』の情景を完結させてみせたのです。
後日、公任はこの見事な機転を聞き、「清少納言に気安く声をかけるものではないな(圧倒されて恥をかいてしまう)」と舌を巻いて感嘆したと伝えられています。教養と瞬発力が見事に融合した、宮廷サロン文学の白眉と言えるやり取りです。
定期テスト直前に必ず確認しておきたい演習ポイントをまとめました。ノートや問題集を開く前に、以下の3問に即答できるかチェックしてみてください。
問1:語句の意味
本文中の「つごもり」および「いたう」の意味を現代語で答えよ。
【解答の着眼点】「つごもり」は「月末(月の下旬)」。「いたう」は形容詞「いたし」のウ音便で「たいそう、はなはだしく」。
問2:文法と識別
「早く」と責めらる、の「らる」の文法的意味と基本形を答えよ。
【解答の着眼点】基本形は受身・尊敬・自発・可能の助動詞「らる」。意味は「受身」(催促される)。
問3:内容理解と背景
清少納言が詠んだ上の句が絶賛された理由を、「元となった漢詩の作者名」に触れつつ説明せよ。
【解答の着眼点】公任が『白氏文集』(白居易/白楽天)の詩句を踏まえて下の句を出したことを瞬時に見抜き、その意図に合致する「空寒み花に紛へて散る雪に」という上の句を即座に付けてみせたから。
【二月つごもりごろにの品詞分解】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「つごもり」の語源や由来は何ですか?
A1:「月隠(つきごもり)」が転じた言葉です。新月から満ちていった月が、月末になると再び姿を隠してしまうことから、月の終わり・月末を「つごもり」と呼ぶようになりました。対義語の「ついたち」は「月立ち(月の始まり)」が由来です。
Q2:「空寒み」の「み」の文法的な品詞は何ですか?
A2:形容詞の語幹(ここでは「寒」)に付いて「〜が〜なので」という原因・理由を表す接尾語です。「山高み(山が高いので)」「瀬をはやみ(川の流れが速いので)」など、和歌で非常によく使われる重要構文です。
Q3:なぜ藤原公任はわざわざ下の句だけを送ってきたのですか?
A3:当時の貴族社会では、下の句に対して相手が上の句を付ける「短連歌(つなぎ歌)」という知的な遊びが流行していました。公任は中宮定子サロンの女房たちの教養レベルを試し、自身の風流さを誇示するために下の句だけを投げかけたのです。
『枕草子』「二月つごもりごろに」は、細切れの文法知識だけを暗記しようとすると難解に思えますが、「誰が誰にプレッシャーをかけているのか」「和歌の背景にどんな教養バトルがあるのか」という人間ドラマを理解すると、助動詞の識別も敬語の方向も自然と頭に入ってきます。
特に「らる」の受身、「なり」の断定、そして「み」による原因・理由の構文は、他の章段や入試問題でも繰り返し問われる必須知識です。本稿の品詞分解と現代語訳を照らし合わせながら音読を繰り返し、定期テストでの高得点を確実に掴み取ってください。