ホーム スポーツ 大相撲や日本髪を支える「元結」とは?水引との違いや歴史を徹底解説

大相撲や日本髪を支える「元結」とは?水引との違いや歴史を徹底解説

夏目 恋 夏目 恋 • 更新: • 公開: • 読了約 8 分
目次

大相撲中継で力士の頭上に輝く美しい大銀杏や、歌舞伎・時代劇で目を引く艶やかな日本髪。その髷(まげ)の根元をキュッと固く引き締め、形を崩さぬよう結び留めている細い白い紐をご存じだろうか。これこそが、古くから日本の髪文化を陰で支え続けてきた「元結(もとゆい)」である。

一見すると素朴な紙紐に見えるが、激しいぶつかり合いにも決してほどけない強靭さと、しなやかな扱いやすさを兼ね備えた和紙工芸の最高峰だ。祝儀袋などで馴染み深い「水引」のルーツでもあり、名作落語の題材としても知られる元結の正体と、職人が紡ぐ伝統の技に迫る。

【基本知識】元結の読み方と由来・意味|なぜ髪を結ぶ紐が生まれたのか

元結とは

「元結」は一般に「もとゆい」、または江戸言葉のなまりから「もっとい」と読む。言葉の由来は文字通り「髪の根元(もと)を結ぶ(ゆい)」という動作そのものにある。

日本における結髪の歴史は古く、飛鳥・奈良時代には麻や絹の糸が用いられていた記録が残る。平安時代以降、貴族階級の冠の下で髪を束ねるために使われ始め、室町時代から江戸時代にかけて庶民の間で多様な日本髪や丁髷(ちょんまげ)が流行すると、軽くて切れにくく滑らない和紙製の元結が爆発的に普及した。

単なる日用品にとどまらず、美しい結び目は当時の身分や粋(いき)を象徴する重要な装飾品としての意味も帯びていたのである。

【大相撲の現場】床山が振るう職人技|髷(大銀杏)を結う元結の役割と結び方

現代において元結の真価を最も間近で見られる場所が、大相撲の土俵裏だ。力士の象徴である大銀杏(おおいちょう)や丁髷を結い上げるのは、相撲部屋に所属する専任の職人「床山(とこやま)」である。

床山は「スキ櫛」や「前髪櫛」を駆使して鬢付け油(びんづけあぶら)を髪全体に行き渡らせた後、髪の束を元結で締め上げる。激しい立ち合いや土俵下への転落でも髷が崩れない強度が求められるため、床山は元結を口にくわえ、指先と全身の体重を使って限界まで力強く引き絞る。

このときの髷の元結の結び方は独特で、結び目をハサミで切らずに美しく扇状に広げるなど、細部まで計算された職人技が光る。「紙でありながら絶対に千切れない」という元結の粘り強さがなければ、大相撲の伝統美は成り立たない。

【決定的な違いを検証】元結と水引はどう違う?進化の歴史と使い分け

元結としばしば混同されるのが、贈答用の祝儀袋や正月飾りに用いられる「水引(みずひき)」だ。実は、水引は元結の発展形にあたる。

両者の決定的な違いは、その「構造」と「用途」にある。

・元結(もとゆい):良質な和紙を細かく裂いて強く縒(よ)りをかけ、糊(主に米糊や海藻糊)を塗って乾燥させたもの。基本色は白や黒で、「結んで髪を固定する実用性・強度」が最優先される。
・水引(みずひき):元結の表面に細い絹糸や紙を巻いたり、紅白・金銀などの染料で鮮やかに着色したもの。主に「進物を清めて結び留める儀礼用・装飾性」を目的とする。

江戸時代、日常的な結髪用として大量消費されていた元結に、華やかな染色技術が施されたことで、現在の伝統工芸「水引」へと枝分かれしていった経緯がある。

【伝統のルーツ】長野県「飯田元結」の歴史と今に息づく職人の手仕事

全国の元結生産を一手に引き受けてきたのが、長野県南部に位置する飯田市を中心とした地域だ。「飯田元結」の歴史は江戸時代初期、飯田藩主の奨励によって本格化した。

飯田地方は中央アルプスから湧き出る清らかな水と、コウゾ(楮)などの良質な和紙原料、さらに冬の厳しい寒風という「和紙作りと乾燥に適した風土」に恵まれていた。飯田の元結は「硬くて切れず、糊のノリが良い」と江戸の町で大評判となり、文政年間には年間数千万本もの生産量を誇った。

明治時代の断髪令によって髷を結う習慣が激減した際も、飯田の職人たちはその高度な紙漉き・撚糸技術を活かして「飯田水引」へと産業を転換。現在も全国の水引生産の約7割を占める一大産地でありながら、大相撲や歌舞伎界の要請を受け、昔ながらの元結の手作り技術を守り継いでいる。

【名作落語の世界】人情噺の最高峰『文七元結』のあらすじと元結の深いつながり

元結という言葉を、古典落語の名作『文七元結(ぶんしちもっとい)』で知ったという人も少なくない。三遊亭圓朝が手掛けたこの演目は、江戸庶民の情愛と元結問屋を巡る感動的な人情噺だ。

腕は良いが博打好きで貧乏暮らしの左官・長兵衛は、娘のお久が吉原へ身売りして工面してくれた大金・50両を手にする。その帰り道、吾妻橋から身を投げようとする若者・文七に遭遇する。文七は日本橋の元結問屋「近江屋」の奉公人で、売上金の50両を掏摸(すり)に盗まれ、死んで詫びようとしていた。

見かねた長兵衛は「死ぬな、この金を持っていけ」と、娘の命ともいえる50両を赤の他人の文七に投げ与えてしまう。後に文七の金は盗まれておらず置き忘れだったことが判明し、近江屋の主人は長兵衛の義侠心に深く感謝。お久を身請けして長兵衛夫婦の元へ返し、やがて文七とお久が祝言を挙げて新しい元結屋を開く――という心温まる結末を迎える。

この噺からも、元結が当時の江戸っ子の生活や商売にいかに深く根付いていたかがよく分かる。

【入手・活用ガイド】日本髪の結い方から元結の販売店・現代の購入方法まで

現在でも日本舞踊、歌舞伎、時代劇の撮影、成人式や婚礼で本格的な日本髪(文金高島田など)を結う際には、ゴム紐ではなく元結が欠かせない。元結を使うことで髪に余計なシワが寄らず、美しい面(ツヤ)をキープしたまま強固に結い上げることができるからだ。

一般的な購入方法と販売店:
・和装小物専門店・かつら店:京都や浅草などの老舗結髪問屋でプロ仕様のものが手に入る。
・飯田水引の直営店・アンテナショップ:長野県飯田市の伝統工芸館や公式オンラインショップ。
・大手ECサイト:Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピング等でも「元結」「白元結」などの名称で手軽に購入可能(1束数百円〜)。

日本髪のセルフアレンジや和風ハンドメイドクラフトの素材として、現代でも多くの愛好家に親しまれている。

【元結 と は】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:元結は普通の輪ゴムやビニール紐で代用できませんか?
A1:一時的な結束ならゴムでも可能ですが、本格的な日本髪や相撲の髷では代用できません。元結は鬢付け油を吸っても滑りにくく、適度な摩擦力で髪を痛めずに締め付けられる特性があるため、プロの現場では元結が必須とされています。

Q2:元結の主原料は何ですか?
A2:コウゾ(楮)やミツマタなどを原料とした手漉き和紙が主原料です。和紙を細長く裁断し、撚り(より)をかけて紐状にし、米糊などで固めて仕上げられます。

Q3:一般人でも元結を使って髪を結ぶことはできますか?
A3:可能です。着物や浴衣を着る際の和装ヘアアレンジ、またはハンドメイドアクセサリーの芯材やラッピング資材としても活用されています。

普段の生活ではあまり意識することのない「元結」だが、大相撲の勇壮な土俵入りや歌舞伎の舞台、日本の伝統的な美意識の根底には、常にこの小さな紙紐が存在している。

単なる消耗品ではなく、1000年以上の歴史の中で職人たちが改良を重ねてきた和紙のハイテクノロジーともいえる元結。大相撲や伝統芸能を鑑賞する際には、ぜひその頭上に結ばれた職人技の結晶にも注目してみてほしい。

同じカテゴリの記事

夏目 恋

リーグ公式記録とクラブ発表を出典とし、選手の発言は会見の逐語録に基づいて引用します。確認できない噂は扱いません。

おすすめの関連記事